高倉式コンポストを改良して「パナマ式コンポスト有機肥料」を作成
JICAが途上国へ普及している高倉式コンポストの作り方を改良して、「パナマ式コンポスト有機肥料」を作った。
この肥料は「高倉式コンポスト」と「ボカシ堆肥」のメリットを併せ持っている。
高倉式コンポストの普及を目指している協力隊も多いので、今回は高倉式コンポストの問題点とパナマ式コンポストの紹介をしよう。
JICAが途上国へ普及している高倉式コンポスト
高倉式コンポストの紹介から始めよう。
1.高倉式コンポストとは
高倉式コンポストとは、J-POWERグループ株式会社ジェイペック(J-POWER/Jpec)の高倉弘二氏が開発したコンポスト化手法の一つで、特定の発酵菌ではなく現地で入手できる発酵菌を利用するものだ。
高倉さんが開発した手法だから、高倉式コンポストという。
高倉式コンポストの特徴は、果物の皮、発酵食品、米ぬか、もみ殻、腐葉土など、その土地の材料から発酵菌を摂取・培養し、有機ごみと混ぜ合わせ、好気発酵させることで、短時間(特に熱帯地域において)に有機分の多くを分解することだ。
JICAは高倉式コンポストに惚れ込んでおり、プロジェクトや青年海外協力隊を通して発展途上国へ高倉式コンポストの作り方を普及している。
青年海外協力隊・環境教育隊員は「派遣前技術補完研修」という訓練で、高倉式コンポストの作り方を教えられ、派遣先で高倉式コンポストの普及している。
高倉式コンポストは農業への肥料利用のための技術というよりは、市街地での生ゴミの処理方法という意味合いが強く、インドネシア・スラバヤ市の生ごみ処理では成果を上げている。
引用元:「魔法のバケツ」の普及につとめる、日本人研究者の情熱
しかし、JICAが開催している有機肥料講習会では、高倉式コンポストが有機農業の手法として紹介されており、パナマでも農村部へ普及する動きもある。
ぼくのカウンターパート(仕事上の相棒)も高倉式コンポストに興味を持っている、というか「全ての農業問題を解決する世界一の技術」と勘違いしている。
ちなみに、彼はJICAが途上国へ普及しているEM菌も同じように「神がもたらした奇跡の技術」だと思い込んでいる。
2.高倉式コンポストのメリット・デメリット、怪しさ
高倉式コンポストの概要を説明したので、次は高倉式コンポストのメリットとデメリットを紹介しよう。
(1)メリットは、簡単・速い・安い・衛生的・臭いがしない・良質な堆肥ができる
高倉式コンポストが謳っているメリットは、「簡単・速い・安い・衛生的・臭いがしない・良質な堆肥ができる」である。
発酵食品を使った発酵液をコンポストに混ぜることで、生ゴミの分解速度を早めることができ、しかも悪臭を抑えることができるそうだ。
高倉式コンポストは「簡単・速い・安い」「衛生的」「臭いがしない」「良質な堆肥ができる」など、今までのコンポスト技術にはない高い効果が簡単に得られるという特徴を持っています。
引用元:「魔法のバケツ」の普及につとめる、日本人研究者の情熱
(2)デメリットは、ぶっちゃけ簡単ではないこと
高倉式コンポストは作り方が簡単だと謳っているが、ぶっちゃけ簡単ではなくとても面倒くさい。
高倉式コンポストを作る工程は、以下の9つの工程だ。
1.材料を用意する
2.発酵液を作る(発酵食品+砂糖水、野菜・果物+塩水)
3.発酵床を作る(米ぬか+もみ殻、稲わら+落ち葉+腐葉土+麦がら+干し草)
4.水分調整する
5.発酵させる
6.生ごみコンポスト容器を作る
7.コンポスト容器へ生ごみを入れる
8.コンポストを取り出す
9.熟成させる
はっきり言って、9つの工程も必要なんて面倒くさい!
勤勉な日本人ならばいいかもしれないが、ぼくのような怠惰な日本人やラテン人は絶対に、絶対に面倒くさがってやらない。
(3)怪しい
高倉式コンポストでは「生ゴミが腐敗せずに発酵する!」と謳っているが、そもそも発酵と腐敗に科学的な違いはない。
人間にとって有用な分解現象を「発酵」とよび、人間にとって有害な分解現象を「腐敗」と呼び分けているにすぎないので、「生ゴミが腐敗せずに発酵する」という説明は意味が良くわからない。
臭い発酵食品だってある。
生ゴミの分解には腐敗がつきものである。そうした中、高倉氏が注目したのは発酵というプロセスだった。
微生物の分解作用は大きく発酵と腐敗の二つに分けられる。
悪臭は腐敗にともなって生じるが、発酵菌の働きが腐敗菌を上回ればそれは避けられるのだ。
引用元:「魔法のバケツ」の普及につとめる、日本人研究者の情熱
ぼくはエセ科学が大嫌いで、世に蔓延っている考案者の名前がついた「○○農法」にも拒否反応を示す。
高倉式コンポストも基本的には間違っていないと思うが、たまに科学的根拠がなく怪しい部分がある。
高倉式コンポストの発酵速度は、本当に発酵食品に含まれる菌によるものなのか……?
なのでどうしても高倉式コンポストからは、一時はブームになったが現在は批判されている「EM菌」っぽさを感じてしまう。
日本国内ではEM菌の環境悪化問題や科学的信憑性のなさが取りざたされているが、JICAは未だにEM菌の途上国への普及に積極的なのだ。
ちなみに、EM菌を混ぜたEM菌飲料は「体に悪い放射性物質を体外に放出できる」と謳っている。
高倉式コンポストが開発途上国に普及しない理由
ここからは、高倉式コンポストが開発途上国で普及していない理由を説明しよう。
1.材料の入手が難しい
高倉式コンポストを作るためには発酵食品が必要になるが、発酵食品を食べる食文化がある地域では手に入るだろうが、そうではない地域では難しい。
現在、高倉式コンポストが主にアジアでしか広まっていない原因はこれだろう。
生ごみをコンポストにするためには、発酵菌、放線菌、担子菌が必要です。
発酵菌を入手するのは発酵食品からです。
日本ではヨーグルトや納豆、米麹、漬物類、キムチ、ドライイーストなどです。
海外でも、それぞれの土地の発酵食品が入手できます。
2.作り方が面倒くさい
デメリットで紹介したように、高倉式コンポストは作り方が複雑で面倒くさい。
几帳面な性格の日本人には合うかもしれないが、めんどくさがりな人には向いていない。
マニュアルを読みながら作らないといけなので、田舎に住む文字が読めない人にも普及できない。
3.現地にあった材料と作り方が普及されていない(普及方法の問題)
高倉式コンポストは、固定された材料で作るのではなく、地域にあった材料で作ることが推奨されているが、それはあくまでも理想の話で一旦普及活動に移ると、固定された材料と作り方を教えるだけになるのだ。
例えば、JICAの研修に参加した農業技師であるカウンターパートも「高倉式コンポストには、納豆を使わないといけない」と勘違いしていた。
どれだけ高倉式コンポストが素晴らしい技術でも、普及方法が悪ければいつまで経っても普及しないだろう。
4.そもそも、田舎は生ゴミ問題で困っていない
先進国では生ゴミが問題になっているが、開発途上国では必ずしもそうではない。
そもそも貧困地域では大量の生ゴミが発生しないし、果物の皮などの生ゴミが出たとしても「家畜のエサ」として利用されており、実は生ゴミはゴミではなく貴重な資源なのだ。
生ゴミが問題となるのは、ゴミ処理施設を持っていない途上国の都市部の話で、途上国の農村部では高倉式コンポストは必要ない。
5.日本人専門家と途上国の村人が求めている成果にギャップがある
仮に高倉式コンポストを普及させるのにピッタリの地域があり、そこに日本人の専門家や青年海外協力隊・環境教育隊員が奇跡的に派遣されたとしても、その地域に暮らす村人が求めている成果との間にギャップがあり、うまくいかないだろう。
(1)日本人専門家は、効果を高めることを目指している
日本人の専門家は、既存のコンポストよりも分解速度を早めたり肥料効果を高めることが目的で、高倉式コンポストを普及しようとする。
日本人にはトヨタで有名な「改善」の思想が染みついているからだ。
より効果が高い肥料、より分解が早いコンポスト、より臭わない生ゴミ処理方法を追及してしまう。
(2)途上国の村人は、作業を減すことを目指している
しかし、発展途上国の村人の多くが願っていることは、日本人専門家とは違ってる。
彼らが望んでいることは、作業を減らして労働を楽にすることだ。
途上国の田舎に住む村人は、日本人とは価値観が違う。
より少ない材料で作れる肥料、より少ない工程で作れるコンポスト、より楽にできる生ゴミ処理方法を求めている。
この価値観の違いを理解できないせいで、国際協力の世界では頻繁に「ボタンの掛け違い」が起きている。
パナマの農村部へJICA専門家が「効果が高いが複雑な工程の有機肥料の作り方」を普及しようとしたが、全然普及できていないことも原因はこれだ。
そこでぼくはカウンターパートと一緒に、今回紹介する作り方とは別の「スーパー簡単な有機肥料の作り方」を普及してきた。
これがパナマ人のカウンターパートが作成した「新しい有機肥料のマニュアル」だが、簡単な図にできるほどスーパーシンプルで簡単なことが一目でわかってもらえるはずだ。
すでにカウンターパートへは技術と理論が移転したので、ぼくが日本へ帰国した後は彼が普及を継続する予定だ。
無料で手に入る材料でできる超簡単な「パナマ式コンポスト有機肥料」
それでは、高倉式コンポストをもとに、途上国の田舎向けに無料で手に入る材料で超簡単にできる「パナマ式コンポスト有機肥料」の作り方を紹介しよう。
簡単に説明すると、【ボカシ堆肥+高倉式コンポスト】。
家畜の糞を使うことで高倉式コンポストよりも肥料分が高く、腐った果物を使うことでボカシ堆肥よりも発酵速度が早いのが特徴だ。
都市部の生ゴミ問題のためというよりは、途上国の農村部の生ゴミで有機肥料を簡単に無料で作るための技術だ。
1.パナマ式コンポスト有機肥料の材料
パナマ式コンポスト有機肥料の材料は、以下の3つだけだ。
(1)家畜の糞
窒素分として、家畜の糞を入れよう。
牛糞、馬糞、鶏糞、ヤギの糞などがよい。
(2)植物性廃棄物
炭素分として、植物性廃棄物を入れよう。
落ち葉、腐葉土、稲わら、もみ殻、樹皮などがよい。
(3)腐った果実
菌の増殖を促進させるために、腐った果実を入れよう。
バナナ、マンゴー、カシューナッツなど、糖分を多く含んだフルーツがよい。
特にカシューナッツは、インドでは「フェニ」という発酵酒の材料に使われるほど、発酵しやすい果物なので向いている。
普及する際は、【①動物の糞、②植物性廃棄物、③腐った果物】の3つのタイプが、最低一つは必要だと教えることが重要だ。
例えば、【牛糞+落ち葉+木の樹皮】の3つではダメ。
逆にいうと、牛糞も落ち葉もバナナもなかったとしても、【鶏糞+稲わら+マンゴー】ならOKだ。
2.コンポスト有機肥料の作り方
ここからは、コンポスト有機肥料の作り方を説明しよう。
(1)材料を細かく切る
まずは材料をすべて細かく切ろう。
(2)材料を混ぜる
材料を混ぜよう。
比率は使う材料によって異なるので試しながら決めて欲しが、村人に教えることを考えると【1:1:1】が分かりやすい。
(3) 土と水を足して混ぜる
そこに土と水を足して、さらに混ぜよう。
菌の増殖に水分が必要で、土が肥料分を吸着してくれるからだ。
村人に普及するためには、水分率を細かく気にしていては無理だ。
大雑把に考えよう。
(4)カバーをかけて放置
温度と湿度を保つために、カバーになるものをかけて放置しよう。
ビニール製カバーがなければ、バナナの葉や稲わらなどでもよい。
(5)熱を持ったら混ぜる
有機物が発酵することにより堆積物が熱を持つので、堆積物の中央部へ手を入れて温度を確認しよう。
温度計がある場合には堆積物の内部まで差し込んで、中心部の温度を測定してみよう。
パナマ式コンポスト有機肥料は、発酵速度が早いため、一日で50度まで温度が上昇していた。
もとから腐った果物を使っているので、一日置いただけでカビも生えてきた。
温度が高い場合(50~70℃)には撹拌し、乾燥していたら水を足す。
撹拌する回数は気温や材料によって異なるので、実践しながら決めてほしい。
(6)新しいゴミ(材料)を足しながら、古い部分から肥料として使う
これでコンポスト有機肥料のベースができたので、あとは新しいゴミ(材料)を足しながら、古い部分から肥料として使っていこう。
3.大切なことは、マニュアルを覚えるのではなく、その根底にある理論を学ぶこと
このコンポスト有機肥料の作り方を覚えても、きっと役には立たない。
それは、途上国の国ごとに条件は違うし、村人ごとに教えるべき技術も違うからだ。
高倉式コンポストもそうだが、その作り方を学んでそのまま普及するのではなく、高倉式コンポストを通してコンポストや有機物分解の仕組みを学び、自らの力でその地域にあったコンポストや有機肥料の作り方を考案すべきだ。
パナマの農村部では乾季の終わりにカシューナッツやマンゴーの果物が大量に腐ってゴミになるので、このようなパナマ式コンポスト有機肥料を考案したが、他の国や地域では手に入る材料や発生するゴミは違うだろう。
大切なことはマニュアルを学ぶことではなく、その根底にある理論を学ぶことである。
青年海外協力隊の農業系隊員や環境教育隊員には、マニュアルや教科書に従って既存の技術を教えるのではなく、実践しながらその地域にあった新しい技術を編み出してもらいたい。
そのためには、体系的な知識が必要になるので、自分で勉強しないといけない。
参考:ネットで農薬を調べまくる有機農業信者さんも、自分が何を知らないのかまでは知らない
その際には、隊員が日本へ帰国後もその技術が継続・定着するように、隊員の価値観だけではなく村人の価値観を学ぶことが重要だ。
村人の生活を知ることが第一歩だ。
まとめ
高倉式コンポストを改良して「パナマ式コンポスト有機肥料」を作った。
農業技師や農民へこの作り方を教えたい。
おすすめの本
コンポスト科学: 環境の時代の研究最前線
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