農業技術「マルチング(Multing)」とは?
マルチとは、プラスチックフィルムや稲わらなど土壌の表面を覆う資材のこと。
もしくは土壌の表面を覆う行為を指す農業技術である。
マルチング(Multing)ともいう。
マルチは小規模な家庭菜園でも、大規模商業的な施設園芸でも使われている。
なので、とても基本的で重要な農業技術である。
ぼくの実家の果樹園でもリンゴ栽培や野菜栽培のためにマルチを使っていた。
また信州大学農学部でもマルチを使ってイチゴ栽培の研究をしていた。
そして青年海外協力隊・野菜栽培隊員として派遣されたパナマでは村人にマルチを指導している。
そこで今回は、マルチングの種類と効果、稲わらマルチ栽培の家庭菜園での使い方、ビニールマルチをきれいに張る方法を紹介しよう。
マルチの種類・材料(ビニールマルチと植物性マルチ)
まず最初に、マルチの種類と材料について説明しよう。
1.地温抑制効果がある黒色ビニールマルチ
最も一般的なマルチといえば、黒色ビニールマルチだ。
光を通しにくい黒色でできたビニール素材のため、地面の温度(地温)を上げにくいといわれている。
農家向けにはロール状で販売されているが、最近では家庭菜園向けに使い切りサイズの袋でも販売されている。
便利な植穴が空いているマルチ
最初から決まった間隔で植穴が空いているマルチも売っている。
植穴が空いているマルチは、穴を開ける必要がなくすぐに定植できるので便利だ。
育てたい野菜に合った穴あき間隔のマルチを選ぼう。
2.モザイク病予防のための害虫忌避効果つきの反射マルチ
モザイク病というウイルス病対策として、ウイルスを媒介するアザミウマなどの虫が嫌う光を反射させるマルチもある。
農薬ほど劇的な効果はないが、虫の飛来を減少できるらしい。
3.リンゴやモモの着色促進のためのシルバーマルチ
リンゴやモモを育てている果樹園では、果実の着色促進のためにシルバーマルチを使っている。
シルバーマルチが光りを反射させ、日が当たらない果実の下部を着色させる効果がある。
参考:珍しくて美味しい中南米の熱帯スーパーフルーツ図鑑【アイスクリームビーン・マメイ・サポーテ・ヒカマ・グアナバナ・カイミート・プラタノ・ランブータン】
4.白色マルチ
白色マルチは地温の上昇・抑制効果があまりないが、湿度安定化と雑草抑制効果、害虫忌避効果はある。
イチゴの高設栽培用白色マルチ
イチゴの高設栽培では、雑草抑制と湿度安定化、イチゴ果実を汚さないために白色マルチが使用されている。
参考:イチゴの育て方を勉強したい人におすすめな本【苺の基礎知識・農家の知恵・養液栽培・LED植物工場】
参考:苺ソムリエ直伝!イチゴの甘い果実の見分け方&おすすめの品種と美味しい食べ方、苗作り&簡単な育て方
参考:イチゴの旬はいつなのか?実は冬でも初夏でもない。苺が好きだった祖母との思い出
白色マルチの張り方は農家によってさまざま。
広い一枚張りで穴を開ける人や、細いマルチを3枚使ってホッチキスで留める人がいる。
作業効率化を目指す工夫が感じられる。
地温抑制&強反射&防水効果があるタイベックマルチ(夏秋イチゴ・柑橘類)
アメリカのデュポン社製の「タイベック」という白色マルチは、少し特殊。
地温抑制効果と光の反射率が高く、水を通しにくい。
そのためタイベックは、柑橘類の高糖度栽培と夏秋どりイチゴ栽培に使用されている。
およそ3年間使用できるが、値段は高い。
5.植物性マルチングの代表、稲わらマルチ
マルチには石油製品が基になったものだけでなく、植物性の材料で作るモノもある。
植物性マルチの代表的なものが、稲わらマルチである。
(1)野菜畑への稲わらマルチの利用
稲わらマルチを細かく刻み、畑の土壌表面に敷き詰めることで、ビニールマルチとほぼ同様の効果が得られる。
参考:えっ、1本のトマトが5本に増える!?家庭菜園でトマトの脇芽から挿し木苗(挿し芽苗)を無限に増やす栽培方法とコツ
参考:コールラビの家庭菜園で簡単にできる栽培方法と美味しい食べ方(サラダ・スープ・炒め物)
参考:熱帯農業のプロが教える!真夏に家庭菜園に植えた野菜の苗が枯れるのを防ぐ秘訣
(2)果樹園への稲わらマルチの利用
果樹園でも稲わらマルチが利用されている。
果樹園ではリンゴやナシ、カキの木の根元に稲わらを束ごと敷き詰めている。
(3)ビニールマルチと稲わらマルチの併用
ビニールマルチと稲わらマルチを併用して使うこともある。
野菜を栽培する畝はビニールマルチで覆い、通路を稲わらマルチで覆うというスタイルだ。
6.雑草と落ち葉の有効活用方法、雑草マルチ
稲わらが手に入りづらい地域では、刈り取った雑草を使った雑草マルチが利用されている。
雑草の種子を持ち込んでしまうリスクはあるが、コストがゼロで簡単に導入できる。
7.竹の意外な利用法、竹マルチ
竹を使ってマルチを敷くという斬新なアイデアもある。
竹が手に入りやすい地域ならば試してみてもよいだろう。
8.稲作地帯で使える、籾殻燻炭マルチ
籾殻が大量に手に入り、自分で籾殻燻炭を作るのであれば、籾殻燻炭マルチもできる。
栽培終了後には土壌と一緒に混ぜることで、土壌改良剤としても効果を発揮する。
参考:道具なしで超簡単!家庭菜園向けの籾殻燻炭(もみ殻くん炭)の作り方と使い方と効果
9.熱帯気候でのバナナの葉マルチ
熱帯気候では、簡単に手に入るバナナの葉をマルチングの材料として使用できる。
バナナは葉が大きいためマルチに利用しやすいが、乾燥すると縮まるので注意が必要だ。
10.珍しい石マルチ
石が多い場所では、石マルチも実施されているそうだ。
パナマでも石が多い村があり、バナナの葉と併用して試してみた。
しかし、石は重たくて扱いづらいのでやめてしまった。
このようにおよそ10種類のマルチが農業に利用されている。
畑でマルチを使う効果・メリット、有機栽培への利用価値
次に、畑でマルチを使う効果・メリット、有機栽培への利用価値について説明しよう。
1.地温抑制・上昇効果
マルチを使うことで、地温の抑制もしくは上昇効果がある。
透明なマルチを使えば太陽光が透過するので、地温は上がり易くなる。
逆に黒色マルチや植物性マルチを使うと太陽光が透過しない。
なので、地温は抑制されやすくなる。
春先に地温を上昇させて収穫時期を早めたければ透明なマルチを使うべき。
逆に夏に地温を抑制したければ植物性マルチ。
もしくは白黒二重構造のダブルマルチをおすすめする。
このように、栽培の目的にあったマルチを利用すべきだ。
2.土壌水分の保持、土壌中水分量変化の緩和
農作物の栽培にマルチを使うことで、土壌水分の保持と土壌中水分量の変化を緩和してくれる。
マルチングをすることで、地表からの水分の蒸発を抑制。
そして、降雨による急激な水分の増加も防いでくれるのだ。
例えば、トマトやピーマンの尻腐れ病の直接の原因は「カルシウム欠乏」。
だが、土壌の乾燥しすぎや水分量が多すぎることで根が弱り、発生が助長されると言われている。
そして、トマトの裂果の原因も同様である。
マルチをすることで土壌中の水分量を一定に保ってくれ、これらの問題の発生を抑制してくれるだろう。
3.雑草防除
マルチを使うことで地表に太陽光が届かなくなる。
そして、農作物と養分競合を引き起こす雑草の繁茂を防いでくれる。
特に畝への黒色ビニールマルチと通路への植物性マルチを併用すると、雑草抑制効果は高くなる。
このようにマルチを使うことで、除草剤の使用を削減できる。
4.肥料成分の流亡抑制
マルチを使うことで、土壌中の肥料成分の流亡を抑制してくれる。
激しい降雨により土壌中の肥料が流れ出してしまう。
しかし、マルチを敷いていれば水による肥料の損失を防いでくれる。
植物性マルチよりもビニール製マルチの方が、その効果は高い。
ただし、空心菜は水をとても好むので、マルチ無しでも元気に生育していた。
参考:空心菜の栄養価&家庭菜園向けの簡単な栽培方法・挿し木増殖&美味しい炒め物レシピ
5.土壌の跳ね返り抑制、土壌性病害虫の予防
降雨による土壌の跳ね返りが植物の葉に付着することで、土壌性病害が植物に感染しやすくなる。
しかが、マルチングを行うことでそれを防ぐことができる。
パナマではマルチを使わないので、トマトなど多くの野菜がこの病気により短期間で枯れている。
ただし、この問題に対しては、脇芽から連続的に苗を育成して、短い栽培期間で苗を交換していくという裏技で対応した。
参考:えっ、1本のトマトが5本に増える!?家庭菜園でトマトの脇芽から挿し木苗(挿し芽苗)を無限に増やす方法とコツ
6.土壌の膨軟性保持
マルチは強い降雨から地表を守ってくれるので、土壌の膨軟性を保持してくれる。
7.害虫の飛来抑制
害虫忌避効果がある反射マルチや、タイベックマルチを使うと害虫の飛来を抑えてくれるといわれている。
これはアザミウマなどの害虫が反射する強い光を嫌うためである。
8.土壌への有機物の供給
植物性マルチを栽培終了後に土壌中に混ぜることで、土壌への有機物が供給できる。
土壌への有機物の供給が、有機栽培には重要である。
ただし袋栽培を用いることで、最初から良い状態の土で栽培することができ、土づくりを省略できる。
参考:メリット&失敗しないコツ!家庭菜園の袋栽培で誰でも簡単に新鮮で美味しい野菜を収穫する方法
9.リンゴやモモなどの果物の着色促進
リンゴやモモなどの果樹栽培には、果実の着色を促進するためにシルバーマルチが使用されている。
10.柑橘類の水切り(タイベックマルチによる栽培)
みかんなどの柑橘類の高糖度栽培をするためには、水を透過しにくいタイベックマルチが使用されている。
11.有機栽培への利用価値
有機栽培とは、農薬や化学肥料を使わずに農作物を栽培する農法のことだ。
雑草防除のため、土壌性病害の予防、土壌の団粒構造と肥料分の確保、菌類の活性のために、マルチが有効である。
有機栽培を行っている農家では、ほぼ間違いなくマルチが利用されていると言っていいだろう。
マルチングのデメリット・リスクと利用上の注意点・アドバイス
次にマルチングのデメリット・リスクと利用上の注意点・アドバイスを紹介しよう。
1.風に飛ばされる
ビニールマルチも植物性マルチも、押さえておかないと風に飛ばされてしまう。
ビニールマルチは端をしっかりと地中に埋めるか、マルチ抑えピンを使って抑えなくてはならない。
植物性マルチの場合には、上に木の枝を乗せたり石を乗せよう。
2.ビニールマルチは使用後にゴミが散らばる
植物性マルチは使用後に土に混ぜたり埋めてしまえばよい。
しかし、ビニールマルチを使用後にはマルチを手で回収しようとしても、どうしても畑にゴミが残ってしまう。
ゴミが散らばる問題を解決するために、分解して自然に還るビニールマルチが開発された。
(1)光崩壊性マルチ
光崩壊性マルチとは、紫外線で分解するビニールマルチである。
紫外線で分解するので、使用後は畑に放置できる。
(2)生分解性マルチ
生分解性マルチは土壌中の微生物により、自然に還るビニールマルチである。
部分的な崩壊は1~3ヶ月で始まり、土中では2~6ヶ月で分解される。
3.追肥が難しい
マルチングをすると株元が覆われてしまうので、追肥をするのが難しい。
基肥をしっかりとして追肥の回数を減らし、追肥は株元に行おう。
4.窒素飢餓に陥る
有機物を大量に土中に供給すると、炭素の分解により窒素飢餓が発生する。
窒素飢餓が発生すると植物の生育が著しく制限されるので、一度に大量に施用してはいけない。
家庭菜園で稲わらマルチを利用する方法
ここからは、家庭菜園で稲わらマルチを利用する方法を紹介しよう。
1.稲わらを入手しよう
まずは稲わらを入手しよう。
田舎ならば稲作をしている農家にお願いすれば、どこでも手に入るだろう。
園芸店でも入手できると思う。
2.稲わらを鎌で細かく刻もう
入手した稲わらを鎌で細かく刻もう。
長いまま使用した方が良いという理論を持つ農法もある。
しかし、細かい方が扱いやすいし、分解が早いのでおすすめだ。
3.家庭菜園で育てている野菜の株元に敷き詰めよう
細かく刻んだ稲わらを、家庭菜園で育てている野菜の株元に敷き詰めよう。
雨で流れてしまわないように、株元に集中させよう。
4.栽培が終了した後は、稲わらを土と混ぜよう
家庭菜園で野菜の栽培が終了したら植物体は取り除いてから、稲わらを土と混ぜよう。
稲わらはゆっくりと分解されて、土壌を改良してくれる。
農家が教える!家庭菜園できれいにビニールマルチを張る方法(※3名で)
続いては、家庭菜園できれいにビニールマルチを張る方法をお教えしよう。
ビニールマルチは3名で張るのが一番きれいに張れるので、3名で張る前提で話しを勧める。
しかし、最後に一人でも張れる技を書いてある。
1.畝の周りを掘る
水はけを良くするために高畝にしたい場合には先に畝の中に土を盛もう。
平畝にしたい場合にはそのままでよい。
まずは畝の周りをクワで掘ろう。
畝の周りを掘った土は、ビニールマルチを止めるために使うので、周りに出しておこう。
2.端を地面に埋める
マルチの端を畝の溝に合わせて、土をかけて地面に埋めよう。
この時に端を足で踏んで、ビニールマルチをしっかりと固定しておこう。
3.両側と後ろを引っ張りながら、両端を埋める
一人がマルチを持ち、後ろへ引っ張ろう。
その間に他の二人が、足でマルチの端を踏みながら左右に引っ張りつつ、クワで土をかけて埋めていく。
この時に重要なのは、二人が息を合わせてほぼ同時に作業を進めていくことだ。
4.端を切る
畝の末端までたどり着いたら、ハサミを使ってビニールマルチを切ろう。
埋める分だけ少し長めに切らないといけない。
5.端を埋める
最後に端を埋めれば、ビニールマルチ張りの完了だ!
張った後は、埋めた四方を踏んで歩いてビニールマルチを固定しよう。
6.3名で張った黒ビニールマルチ
ぼくが信州大学の学生時代に3名で張った黒ビニールマルチがこれだ。
我ながらうまく張れている。
6.どうしても一人でマルチを張らないといけない場合の技
どうしても一人でマルチを張らないといけないときの技もお教えしよう。
実はマルチ抑えピンという農業資材を使えば、一人でも張れるのだが農家はあんなものは使わない。
(1)畝の周りを掘る
まずは3名の時と同じように畝の周りを掘ろう。
(2)端を埋める
マルチの端を埋めよう。
(3)反対側までマルチをのばす
次にそのままマルチを反対側の端まで、引っ張りながら伸ばそう。
(4)黒ビニールマルチの反対側を埋める
次にビニールマルチの反対側も土に埋めよう。
(5)黒ビニールマルチの両側を埋める
そして、マルチの両側を片側ずつ埋めていく。
最初の片側はただ埋めていき、もう片側は足て引っ張りながら埋めていく。
(6)一人で張ったビニールマルチ
すると、一人でもビニールマルチが張れる。
7.良いマルチングと悪いマルチングを見分ける方法
マニアックすぎる話だが、良いマルチと悪いマルチを見分ける方法がある。
それは、四つの角を観察すればよい。
四つの角がしっかりと90度になっていれば、それは良いマルチング。
120度くらいに丸っこくなっていれば悪いマルチングだ。
なぜかというと、この四つの角をしっかり出すのが難しいからだからだ。
例えば、このズッキーニのマルチは全然ダメだ。
優秀な農家(俗にいう篤農家)の畑に行くと、必ず畝に張ったビニールマルチの四つの角がピンピンに張っている。
農園に行く機会があれば、これからはビニールマルチの四つの角に注目してみてほしい。
ビニールマルチの張り方を見れば農家の実力がわかる。
ただし、大規模農園ではマルチャーという大型機械でマルチを張ってしまうので、もう職人芸は見れない。
開発途上国への「植物性マルチ栽培」の技術普及の実例紹介
ここからは、開発途上国への植物性マルチの技術普及の実例を紹介しよう。
1.発展途上国へのマルチング技術普及の可能性
発展途上国への農業技術移転の中でも、マルチングは有名な技術である。
どこの国でも一度は普及が試みられているだろう。
マルチングは簡単に誰でもできる技術なので、普及がしやすいのだ。
ぼくも青年海外協力隊・野菜栽培隊員として、パナマに赴任して以来パナマでのマルチング普及の可能性を探ってきた。
(1)パナマ共和国では、稲わらが手に入る
例えば中米のパナマ共和国の主食は米のため、稲作が盛んで稲わらが簡単に大量に手に入る。
稲作といっても陸稲が主体で、収穫はナイフで穂だけを切り取って行うので、稲穂はそのまま畑に残される。
この畑に残された稲わらを、野菜栽培のための稲わらマルチに利用できる可能性がある。
(2)伝統的な焼き畑農業の一部に、稲わらを畑に残す習慣がある
また伝統的な焼き畑農業では、耕作後の畑に稲わらを刈り取って敷き詰める。
そして、キャッサバや豆類を連続して栽培する作型が存在する。
このように村人にとっても、「畑に稲わらを敷く行為は馴染みやすい」と考えられた。
2.パナマ共和国の農業研究施設のビニールマルチ栽培実験
実は、すでにパナマの農業研究施設でビニールマルチの栽培実験が行われていた。
しかし、その栽培レベルは低く、野菜の生育が非常に悪かった。
パナマ人の農業技師たちはマルチ栽培を「新しくて良い技術だ」と言いながらも、そのメリットや使い方を全く理解していなかった。
そのため慣行栽培以下の低いクオリティになっていた。
3.青年海外協力隊・野菜栽培隊員としてパナマ共和国で実行した例
そこで、青年海外協力隊・野菜栽培隊員として、パナマでマルチ栽培の普及を実施してきた。
2013年7月に赴任してから2015年4月までに行ったマルチ普及活動を紹介しよう。
(1)トマトのバナナの葉マルチ栽培の比較実験
まず最初に取り組んだのは、バナナの葉マルチを使ったトマト栽培の比較実験である。
この地域のトマトは、尻腐れ病や土壌性病害により、生育が悪く収穫量が少なかった。
この問題に対して、マルチ栽培が効果的ではないかと仮説を立てて、実験を行った。
そこで、マルチ栽培の効果を村人に示すために、バナナの葉を使ったマルチ栽培区と慣行栽培区を設けて、二つの栽培区を比較栽培した。
子供がマルチ実験を手伝ってくれて、嬉しかった。
(2)キャベツの雑草マルチ栽培の比較実験
乾季にキャベツを栽培している集落では、乾燥によりキャベツが全く生育していなかった。
そこで、雑草マルチ栽培区と慣行栽培区を設置し、キャベツの生育を比較した。
参考:青年海外協力隊の帰国直前に50名の農業技師へ野菜栽培のプレゼンをした真の目的
参考:2年前にクビ宣告を受けた青年海外協力隊が配属先のトップに最終報告をしたら「君を○○したい」と言われた話
バナナの葉のマルチも一部試した。
(3)インゲンマメの雑草マルチ栽培の比較実験
インゲンマメについても、同様に雑草マルチの比較栽培実験を行った。
(4)キュウリの稲わらマルチ栽培の比較実験
現在は稲わらマルチの比較栽培を、キュウリを用いて行っている。
現在は乾季で降雨が全くなく、水の供給は毎朝の手灌水に頼っている。
そのため、慣行栽培区は夕方にはカラカラに乾燥してしまう。
しかし、稲わらマルチを敷いた区画では、夕方まで土の湿り気が維持されている。
(5)マルチングの普及指導
このような比較栽培実験を行いながら、村人に対してマルチのメリットと使い方を指導してきた。
参考:信州大学大学院農学研究科の恩師に第三号農業活動レポートを送おう。
参考:ついに、青年海外協力隊・野菜栽培隊員の三ヶ月間の活動をまとめた第五号農業活動レポートが完成した!
参考:中南米の天水に依存した焼畑農業の共同作業に参加し、伝統的な技術を取得した。
およそ2年間、マルチングの普及指導を行ったことで、マルチの普及に対する知見が蓄積したので報告したい。
4.マルチの普及で失敗したこと
まずは、パナマでのマルチ栽培で失敗したことを報告しよう。
(1)目に見える効果が出ないので、メリットを感じない
マルチ栽培では目に見える効果が出ないので、村人が作業を行うメリットを感じず、マルチ栽培が継続しないことが多かった。
マルチは農薬や化学肥料のような一日で効果が目に見えるような劇的な変化を生まない。
なので、比較栽培をしてもメリットを伝えることが難しかった。
(2)コオロギや毒クモ、毒ヘビの住処になることを怖がる
村人がマルチ栽培を嫌がる傾向にあったので理由を聞いてみると、
「野菜を食べるコオロギが住むから」
「毒クモや毒ヘビが住むから」
という理由が返ってきた。
村人は草むらや刈り草の山に虫やヘビが住んでいると感じており、雑草マルチは危険なモノという印象を持っていた。
このような反応は普及前には予期しておらず、とても驚いた。
(3)見た目が綺麗ではないと考える
村人は何もない畑を美しいと考えており、マルチを敷いている状態は「散らかっていて汚い」と感じていた。
そのため、中にはせっかく敷いた雑草マルチを片づけてしまう人もいた。
これも村人とぼくとの感覚、価値観の違いに驚かされたエピソードである。
(4)風で飛ばされてしまう
パナマは12月から4月が乾季であり、その期間には強い風が吹く。
雑草マルチやバナナの葉マルチは、この強い風で引き飛ばされてしまった。
マルチが風で飛ばないようにする工夫が必要だった。
(5)そもそも収穫出来るまで生育しない
一番残念だったのは、比較栽培をしていてもそもそも収穫まで生育しないことがあったことだ。
水やり不足、肥料不足、定植時の痛み、強すぎる太陽光などで野菜の栽培は困難だった。
5.マルチの普及で成功したこと
マルチの普及を通して、成功したこともあった。
(1)自主的にマルチを試してみる村人が現れた
村人の中には、自主的にマルチ栽培を試してみる人もいた。
新しい技術に対して興味を示し、実際に自分で試してみる姿が見れて、とても嬉しかった。
(2)土壌が改善した
マルチ栽培を繰り返すうちに、痩せていた畑の土壌が改善されてきた。
これは有機肥料とマルチ資材を混和したことによる効果だろう。
(3)生育が良くなった
劇的な変化はないが、植物性マルチを施用することで、野菜の生育は少しは改善されていた。
わずかな変化ではあるが、マルチングの効果を実感することができた。
6.開発途上国でのマルチングの普及についての意見
開発途上国ではマルチングの普及に可能性があると思う。
貧困地域の小規模農家のような、資材にかけるお金もなく大規模農園でもない場合には良いアイデア。
病害虫を予防したり、雑草を抑えたり、植物性マルチは非常に有効な栽培技術だ。
しかし、毒クモや毒ヘビを怖がってマルチを嫌がった村人がいるのように村人の価値観は日本人とは異なる。
なので、農業技術を普及する前にまずは村人の価値観を知る必要がある。
その地域で手に入る材料を使い、比較実験を行いながら、村人にマルチ栽培のメリットと効果を伝えていくべきだと思う。
マルチ栽培とマルチのきれいな張り方まとめ
・マルチングの種類と効果
・稲わらマルチ栽培の家庭菜園での使い方
・ビニールマルチをきれいに張る方法
・開発途上国での技術普及について紹介した。
家庭菜園をしている人には、ぜひマルチを野菜栽培に役立てて欲しい。
家庭菜園に最適なビニールマルチ
以下の道具を買うと、一人でもかんたんにビニールマルチを張れる。
(1)二条植えにちょうどよい「95cm幅」の黒ビニールマルチ50m分
虫除け効果があるシルバーマルチ「95cm幅×50m」
(2)ビニールマルチに「植え付け穴」を開ける道具
(3)ビニールマルチを押さえる道具
(4)一人でもかんたんにビニールマルチを張る道具
家庭菜園の役に立つ農業の本
ここに紹介する農業の本を読めば家庭菜園の役に立ちます。
カラーで見やすい家庭菜園大百科
初心者にもわかりやすい、やさしい有機栽培入門
畝たてをしない省力化の「不耕起(ふこうき)栽培」の本
農薬を使わずに育てられるコンパニオンプランツの本
農薬を使わない永田農法の基礎が学べる本