「君は、青年海外協力隊の先輩隊員に恋をする」
これは、アフリカのタンザニアで農業の研究をしていた先輩から言われた言葉だ。
先輩は研究のためタンザニアに計６年間住んでいた。
最初は全く現地語が喋れない状態で山奥の村に派遣され、一人で２年間暮らしたそうだ。
彼はその後何度もタンザニアに調査に出かけ、今では熱帯農業学の助教授になった。
青年海外協力隊の恋愛事情
先輩はアフリカに６年間も滞在していたため、アフリカで活動する青年海外協力隊員と交流があり「協力隊の裏事情」をたくさん教えてくれた。
その一つが、協力隊員同士の恋愛事情である。
「青年海外協力隊の新人隊員は、先輩隊員に恋をする」
これは、【協力隊あるある】だそうだ。
協力隊員が派遣される地域には、ほとんど日本人が住んでいない場合がほとんどだ。
数少ない日本人同士として、協力隊員同士は恋愛感情を持ちやすい。
しかも、任地に着いたばかりで不安でいっぱいの新人隊員から見て先輩隊員は「現地語を流暢に操れ、活動をバシバシこなす素敵な人間」に映るものだそうだ。
先輩はたくさんの協力隊カップルを見てきたそうだし、僕の知り合いでも協力隊夫婦が３組もいる。
そして、おそらくこの文章を読んで、自分の恋心を見抜かれてドキッとしている新人隊員も多いはずだ。
「ということは、もしやお前も？」と思う人もいるだろう。
たしかに、恋の文章を書いているとき、その書き手は恋をしているものだ。
正直に言おう。
今、僕は恋をしている。
常夏の国パナマに、奇跡の春が訪れた。
青年海外協力隊のグループ派遣での恋愛
僕はパナマに来てから「のび太」と呼ばれている。
このあだ名の由来は、TSUTAYAに行って「のび太の誕生秘話」のDVDを借りるか、この記事を読んで欲しい。
→参照：【のび太の誕生秘話】
3名の女性先輩隊員
のび太の派遣先には、３名の女性先輩隊員がいた。
同じプロジェクトへのグループ派遣である。
しかも、全員が若くて美しく、一人一人が個性的な魅力を持ち、３名ともそれはそれは素敵な女性たちである。
もちろん、のび太よりも流暢にスペイン語を話し、職場にも慣れ、さらに自分自身でやりたい活動を開拓しており、ただただ尊敬するばかりである。
のび太にとって、彼女達はまるで「しずかちゃん」だ。
のび太は毎日、しずかちゃん達のことばかり考えている。
あぁ～何とかして、お風呂を覗きたい！
のび太の恋のライバルは出木杉くん
しかし、のび太には強力なライバルがいる。
それは、のび太のカウンターパートの「男性農業技師」である。
のび太のカウンターパートは、しずかちゃん達から大人気なのだ。
人気の理由は、彼が真面目で、勤勉で、優秀な男だからだ。
彼は何をやらせても完璧にこなす、まるで「出木杉くん」のような人間だ。
しずかちゃん達は、のび太が派遣される前から出木杉くんと一緒に活動を行っており、すっかりメロメロになってしまった。
しずかちゃん達は、毎日出木杉くんの話ばかりしていて、のび太には全然興味がないみたいだ。
のび太にとって出木杉くんは、仕事の相棒であり、かつ恋のライバルでもある。
このままでは、しずかちゃん達を出木杉くんに奪われてしまう。
そこで、のび太は出木杉くんの「欠点」を探すことにした。
出木杉くんの欠点を探して、それをしずかちゃん達に伝え、恋の魔法を解かなくてはならない。
そのため、出木杉くんと仕事の相棒になってからの３週間、ただひたすらに彼の行動を監視した。
今回は、その調査結果を報告することにする。
出木杉くんのデキ過ぎエピソード
出木杉くんの行動を観察すると、以下の6つのデキ過ぎエピソードが見つかった。
１．研修会の報告書を作るのが早過ぎる。
２．出勤時刻が早過ぎる。
３．整理整頓が完璧過ぎる。
４．車の運転が丁寧過ぎる。
５．農業の知識レベルが高過ぎる。
６．スピーチが感動的過ぎる。
一つずつ説明しよう。
１．研修会の報告書を作るのが早過ぎる。
出木杉くんは、日本での有機農業研修会に三ヶ月間参加していた。
その日程が終了し職場復帰した初日に、のび太が「研修会の情報を教えて欲しい」と彼に尋ねると、彼はのび太にワードとパワーポイントの資料を見せた。
それはなんと、研修会の内容を写真と共に文章でまとめ、さらに彼の担当地域が抱える問題点を洗い出し図でまとめ、その問題点を研修会の内容と結びつけ、そこから導き出された具体的な改善策を２年スパンで考えた「壮大な活動計画書」だった。
研修会に参加しながら、２年先を見据えた活動計画を立てるなんて、デキ過ぎる！
２．出勤時刻が早過ぎる。
わが事務所の始業開始時刻は「８時半」なので、職員は８時から９時の間に出勤してくる。
しかし彼は違う。
出木杉くんは、「毎朝７時」に出勤している。
理由は、始業開始時刻から迅速に仕事を始めるためだそうだ。
しかも、彼の家は職場からバスで１時間半ほど離れているので、彼は毎朝５時半に家を出発していることになる。
日の出前から出発するなんて、デキ過ぎる！
３．整理整頓が完璧すぎる。
まずは、写真を見てもらいたい。
これが同僚達の机である。
散らかっている。
そして、これが出木杉くんの机である。
見ての通り、超キレイ！
彼は毎日、帰宅する前に机の上の書類や道具を引き出しの中にしまってから帰る。
綺麗好きだなんて、デキ過ぎる！
４．車の運転が丁寧すぎる。
彼は道を曲がるときに毎回ウインカーを出すが、これは違法運転が当たり前のパナマではあり得ないことだ。
さらに、普通の車は法定速度を２０キロ以上超えているのに、彼は道路の法定速度を必ず守る。
そのため、彼の運転する車はいつも後ろから別の車に煽られているが、それでも彼は法定速度を守る！
安全運転に気を付けているなんて、デキ過ぎる！
５．農業の知識レベルが高過ぎる。
ある日、学校菜園でニンジンのために肥料を準備することになった。
ニンジンは土が柔らかくないとうまく育たないし、収穫までの期間も長いので肥料分も豊富に必要だ。
そこで、彼は「土壌改善効果は高いが、肥料分の少ないサトウキビカス堆肥」と「土壌改善効果は低いが、肥料分の多いコンポスト堆肥」の二つの有機肥料を作成・混合し、ニンジンに最適な肥料を作成した。
有機肥料の作成方法をマスターし、さらにその特徴を理解し使いこなせるなんて、デキ過ぎる！
６．スピーチが感動的過ぎる。
彼がパナマの無電化集落に住む貧しい農家を集めて行ったスピーチを聞いて頂きたい。
農家 「出木杉くん、日本はどうだった？」
出木杉「日本人は頻繁にお辞儀をしていたよ。ところで君達はお辞儀の意味を知っているか？」
農家 「尊敬だっけ？」
出木杉「そう、相手を尊敬する気持ちだ」
農家 「へぇ～」
出木杉「それと、日本人は全員が同じ肌の色をしている。この意味がわかるか？」
農家 「わからない」
出木杉「彼らはみな平等であるということだ。大地震や津波にあっても、彼らは助け合って生きている」
農家「へぇ～」
出木杉「日本は昔、貧しい国だった。そうだよな？のび太？」
のび太「う、うん」
出木杉「原爆を２回も落とされ、戦争にも負けた。しかし、彼らは勤勉に働き、今は最新技術を持っているし、町も村も発展している。日本人はとても働き者だ。これが何を意味しているのか、わかるか？」
農家 「わからない」
出木杉「我々も日本人のように他人を尊敬し、お互いに助け合って、勤勉に働けば、この地域も日本のように発展することが出来るのだ！！」
農家 「うおぉぉぉぉぉぉおおお～～！」
のび太 「出木杉くん、かっこよ過ぎ」
カウンターパートに恋する青年海外協力隊
今、のび太は出木杉くんに恋をしている。
欠点を見つけるために彼の行動を監視していたが、彼には欠点は見当たらず、逆に恋に落ちてしまった。
しずかちゃん達に出木杉くんは渡さない、出木杉くんは僕のモノだ！
もはや、のび太にとってしずかちゃん達は、仕事の相棒であり、かつ恋のライバルでもある。
カウンターパートから学ぶ姿勢
僕のカウンターパートは人格者であり、優秀な農業技術者で、まるで本当に出木杉くんのような人物だ。
そのため、僕は礼儀や農業の技術を「彼に指導する」のではなく、「彼から学ぶ」姿勢で彼と活動しようと思う。
恋は、男の成長を加速させる。
しかし、本物の野比のび太が持つ「射的・あやとり・昼寝」の三大特技のように、いつの日か僕にも何か一つでも彼に教えられることが見つかればいいなと思う。
優秀なカウンターパートと相棒になれたことは嬉しいが、農家の息子として、大学院で農学修士を修了した者として、そして日本男児として、僕も負けていられない。
恋は、男の成長を加速させる。
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