青年海外協力隊・コミュニティ開発に未来はあるか?
ジャイカの青年海外協力隊の職種
JICA青年海外協力隊
青年海外協力隊という言葉を聞いたことがない人はいないだろう。
「海外青年協力隊」と勘違いしている人も多いが、それでもボランティアの知名度としては日本一と言っても間違いはない。
140種以上の職種
青年海外協力隊と言えば、「砂漠で井戸を掘っている」というイメージが今でもつきまとっている。
しかし、実際には青年海外協力隊には「職種」と呼ばれる活動の分類が、廃止されたものも含めて140種以上あり、隊員の活動は多岐にわたっている。
井戸を掘るコミュニティ開発隊員、イネを普及する食用作物隊員、日本語を教える日本語教師隊員、パソコン操作を教えるPCインストラクター隊員、柔道を教える柔道隊員などバラエティ豊かである。
コミュニティ開発(村落開発普及員)
一番人気の職種
数ある職種の中でも、一番有名で一番人気が高い職種が、コミュニティ開発である。
コミュニティ開発という職種に聞き覚えがない人も多いと思うが、実はもともとは村落開発普及員という名前で呼ばれていた。
平成25年度二次隊から職種の名称が変更になり、村落開発普及員という名前からコミュニティ開発という名前に変更になった。
しかし、活動内容は同じである。
村落地域の問題解決、近代化の促進、プロジェクトの運営改善、一村一品活動の実践、改良カマドの普及などである。
コミュニティ開発は募集人数も現役隊員数もOB・OG数もとても多く、青年海外協力隊の花形職種である。
地域おこし協力隊っぽい
ぼくはもともと青年海外協力隊ではなく、地域おこし協力隊になりたかった。
そのため、当初は地域おこし協力隊の活動に似ている村落開発普及員になりたいと思っていた。
しかし青年海外協力隊に応募する段階になり調べてみると、村落開発普及員の人気が高く倍率が非常に高かったので、結局は「野菜栽培」という別の職種で応募し、見事一発で合格することが出来た。
参考:本当は教えたくない!青年海外協力隊に合格する裏技を暴露する。|JIBURi.com
ぼくは青年海外協力隊・野菜栽培隊員として、2013年6月から今日までの1年4か月間活動してきた。
その間にコミュニティ開発隊員と一緒に活動することもあったし、他国のコミュニティ開発隊員の活動状況を知る機会もたくさんあった。
もちろん、コミュニティ開発以外の職種とも関わりは多く、ボランティア像についても考える機会に恵まれていた。
そして、次第に「コミュニティ開発という職種は必要ないのでは?」と思うようになった。
今回は、コミュニティ開発という職種とボランティアの目指すべき姿についてまとめることにする。
コミュニティ開発が不要だと思う理由
ぼくがコミュニティ開発(村落開発普及員)を不要だと思う理由は、以下の三点に集約される。
1.専門性がないので、出来ることがない。
2.代わりに他の職種を増やすことが出来る。
3.他の職種でもコミュニティ開発として活動できる。
順番に説明して行こう。
1.専門性がないので、出来ることがない。
コミュニティ開発という職種は専門職ではない。
要望によっては制約がある場合もあるが、基本的には文系的な職種で誰でも応募できるのがウリだ。
逆にいうと、専門的な技能を持っていない人ばかりである。
青年海外協力隊に参加前の職業は、一般企業で営業や事務を務めていた人が多い。
コミュニティ開発の強みは、何も専門性がないために視野が広く持て、集落で起きている問題に柔軟に対処できるといわれている。
いうなれば、「何でも屋」である。
「専門性がなく出来ることがない」は言い換えれば、「何でも取り組める」である。
しかし、そうは上手くいかない。
国際協力をするために来たと言いながら専門性がない者を受け入れられる地域や団体は少なく、邪魔者扱いされる場合もある。
特に活動初期において配属先や地域に溶け込む作業で、コミュニティ開発隊員は苦しむことになるだろう。
2.代わりに他の職種を増やすことが出来る。
青年海外協力隊には全部で140種以上の職種がある。
そのため、各職種の募集数には限りがある。
コミュニティ開発の募集数を減らせば、代わりに他の職種の募集人数を確保できるのではないかと思う。
専門性を持たない日本人を途上国に派遣するよりも、専門性を持った日本人を派遣する方が途上国の役に立てるのではないかと思う。
コミュニティ開発の職種の存在意義が、専門性がない日本人に国際協力をするチャンスを与えるというものならば納得はできるが。
ここまで読んで、村落開発普及員のOB・OGや現役の村落開発普及員隊員の皆様は「村落開発普及員やコミュニティ開発にも存在意義はある!途上国の役に立つことは出来る!」と反論するだろう。
確かに、ぼくもその反論には同意する。
過去の村落開発普及員隊員で、派遣国の役に立った隊員はたくさんいるだろう。
専門性がなくても地域に溶け込み村人の生活の問題を解決したり、プロジェクトの運営を改善したりした隊員はいるだろう。
しかし、ぼくは問いかけたい。
「それは村落開発普及員ではないと出来ないことか?」
3.他の職種でもコミュニティ開発として活動できる。
コミュニティ開発ではないと出来ない活動はあるのだろうか?
村落開発普及員やコミュニティ開発が出来ることは、他の職種の隊員でも出来ることだと思う。
コミュニティ開発の活動と言えば、改良カマドの普及、衛生啓発、生活改善、一村一品活動、ファシリテーション。
ぼくは野菜栽培隊員だが、この16カ月間で野菜栽培としての活動の傍ら、上記のすべての活動に取り組んできた。
参考:青年海外協力隊・野菜栽培隊員も改良かまどを普及し、焼畑農業する。|JIBURi.com
参考:途上国の子供の歯科衛生を改善!看護師を巻き込んだ歯ブラシ普及大作戦|JIBURi.com
参考:青年海外協力隊から帰国後に突然医者を目指す人の気持ちが理解できた。|JIBURi.com
参考:メタファシリテーション9ヶ月間!フィールド調査団の野菜ビジネス計画が村人主導で始動した。|JIBURi.com
もちろん、ぼくは一例に過ぎない。
村落開発普及員でなくても、自分の職種に固執せずに地域の問題を解決しようとしている隊員は多い。
これこそ、目指すべきJICAボランティアの姿なのではないか?
目指すべきJICAボランティアの姿
職種に固執するボランティア
JICAボランティアの中には、専門性を持ったボランティアもいる。
例えば、栄養士、看護師、助産師などは資格がないと応募すら出来ない専門的な職種だ。
農業系職種は、野菜栽培、果樹栽培、食用作物栽培などに細分化されているが、派遣先ではコメもマンゴーもキャベツも全部ひっくるめて質問を受ける。
農業系職種は、農業隊員という括り方の方がしっくりくる。
青年海外協力隊の中には、「自分は○○という職種で、××という要請内容のために派遣されたので、それ以外の仕事は一切やらない」というスタンスの人がいる。
そんな人には「お前はJICA専門家にでもなったつもりか!?」と言いたい。
青年海外協力隊には職種という括りがあるが、専門家と呼べるほどの専門性や経験があるわけではない。
もし高度な専門性と経験を有しているのならば、ボランティアではなく専門家になっていたはずだ。
大した専門性ではないから、我々はボランティアなのだ。
ボランティアの中には自分の専門性を過信し、自分の職種だけに固執してしまう者がいる。
なぜ自分の専門性に固執してしまうのだろうか?
目的と手段のはき違え
自分の職種に固執してしまうボランティアは、JICAボランティアの目的と手段をはき違えているのだと思う。
JICAボランティアは、途上国の人の役に立つことが目的であり、そのための手段として支援の効率化のために職種というものが存在している。
しかし、「青年海外協力隊の○○という職種になるために応募した」という人や、「○○を教えるためにボランティアになった」という人がいる。
青年海外協力隊になることや、ボランティアになって技術を教えることは手段であって目的ではない。
その思想では、国際協力で言うところの「ボタンの掛け違え」が起きてしまう。
村人の意見も聞かずに、水がない場所に井戸を掘ったり、野菜が育たないところで野菜を育てたりする。
現場の現状に全く適応していない援助が行われてしまうのだ。
まずは、手段を目的とはき違えないためには、まずは徹底的に現地住民の需要を知るべきである。
実は、この作業はコミュニティ開発の最も得意とする分野だ。
広い視野と深い専門性の両立
国際協力の一端を担っているボランティアに求められる資質とは、広い視野と深い専門性の両立である。
すでに専門性を身につけている者は、広い視野を身につける必要があるし、専門性がない者は専門性を磨かなくてはいけない。
広い視野と深い専門性の両方を持った者こそが、本当に途上国の人の役に立てると思う。
ボランティアが目指すべきは、広い視野と深い専門性を持ったボランティアである。
繰り返し述べてきたように、コミュニティ開発や村落開発普及員の人は、専門性が足りない。
しかし、他の専門性が高い職種にも問題はある。
それは、広い視野が足りないことだ。
ボランティアの質を高める方法
現在のボランティアの現状と、目指すべき姿のギャップを埋めるために、ボランティアの質を高める方法を考えてみた。
1.コミュニティ開発の廃止
2.全隊員に村落開発訓練を実施
以上の方法を試したらどうだろうか。
1.コミュニティ開発の廃止
まずコミュニティ開発のような専門性がない職種を廃止し、専門性が高い職種の募集人数を増やす。
これにより「青年海外協力隊になって国際協力がしたい!」という若者は、必ず専門性を身につけなければいけなくなる。
よって、青年海外協力隊には医療、農業、工業など各分野のプロが集まることになる。
2.全隊員に村落開発訓練を実施
集まった各分野のプロ全員に対して、村落開発に関わる訓練を実施する。
ファシリテーションの方法、農村調査の方法、国際開発学の基礎、フィールド調査の技法などを教え、村落開発の術を授ける。
すると、広い視野と深い専門性を両立した隊員が生まれるはずである。
コミュニティ開発を廃止する代わりに、すべての青年海外協力隊にコミュニティ開発の役割を担わせることが出来れば、より成果を上げる事が出来るだろう。
JICAパナマ事務所の前所長の言葉
ぼくがパナマ共和国に派遣される前、JICA駒ヶ根訓練所での派遣前訓練中にJICAパナマ事務所の前所長と、活動についてのお話をさせて頂く機会があった。
その中で前所長から、あるお言葉を頂戴した。
あなたは野菜栽培隊員だが、村落開発普及員のつもりで活動しなさい。
JICAパナマ事務所・前所長
ぼくは前所長からのこの言葉があったからこそ、野菜栽培隊員という枠に囚われず、広い視野で活動することができた。
すべての隊員がコミュニティ開発という気になって活動すれば、より途上国の人のためになるではないだろうか。
まとめ
青年海外協力隊にコミュニティ開発は不要だと思う。
それは、ボランティアには広い視野と深い専門性の両方が必要だからだ。
そのために、すべての職種のボランティアが村落開発の考え方と技能を身につけるべきだろう。
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