「青年海外協力隊」という言葉を聞いて、あなたはどんなイメージを持つだろうか?
・自分を犠牲にして人助けをしている善人
・海外で楽しい生活を送っていそう
・日本でもバリバリ大活躍していそう
こんなプラスなイメージを持つ人が多いと思う。
ぼくも2013年から2015年まで青年海外協力隊に参加する前には、良いイメージの方が大きかった。
そして実際に、JICAの青年海外協力隊として2年間ボランティア活動をした。
おかげでその裏側も知ることができて、協力隊のイメージは変わった。
JICAの青年海外協力隊は日本の税金で運営されている制度。
だが、日本人はそれを正しく理解していない。
そこで今回は、青年海外協力隊の裏事情についてご紹介しよう。
JICAボランティアの青年海外協力隊とは
まずはJICAと青年海外協力隊について、かんたんに説明しよう。
何も知らないと理解できないので。
1.JICAの国際ボランティア
青年海外協力隊とは、JICAボランティアの制度の一つである。
20歳から39歳までの健康な男女が参加できる海外ボランティア制度である。
40歳から69歳まではシニア海外ボランティアという制度に参加できる。
また青年海外協力隊には、一ヶ月から数ヶ月間の「短期派遣」という制度も存在している。
実は、知名度は低いが「日系社会ボランティア」という日系人を支援するボランティア制度もある。
青年海外協力隊は、運営が日本のODAを一手に引き受けている独立行政法人JICA。
なので、怪しいNGOよりも信頼がおける。
さらに、現地生活費のほかに「就職準備金」という名目で、ほぼ給料代りである国内積立金も支給される。
手当てが非常に厚いことから人気のボランティア制度である。
2.世界中の発展途上国で活動する
青年海外協力隊が派遣されるのは、世界の国々の中でも経済的に発展していない「途上国に分類される国だけ」である。
地域は、アジア、アフリカ、大洋州、中南米と世界中である。
超先進国の日本から途上国に派遣されることで、強弱はあるがすべての隊員がカルチャーショックを体験する。
3.途上国のために国際協力を行うボランティア
青年海外協力隊は留学でもなく、旅行でもなく、国際協力を行うボランティアプログラムである。
海外の生活を体験するだけでなく、そこに暮らす現地人の生活を改善することを目標としている。
青年海外協力隊に求められていることは、変化を起こすことである。
そして、最新の国際協力の理論では、その変化は「現地人だけで持続可能な変化」でなければいけないと言われている。
青年海外協力隊員は、国際協力の素人集団でありながら、国際協力活動を行っている。
4.青年海外協力隊のイメージ
日本ではJICAボランティアとして「青年海外協力隊」の知名度は高い。
でも「貧しい人のためになんか良いことをしてそう…」という漠然としたイメージだけが独り歩きしている。
そして、国際協力に興味を持った高校生や大学生が「将来は青年海外協力隊になりたい!」とまず飛びつく。
しかし、実際には日本の国際協力事業の中心は、JICA専門家や開発コンサルタントなどの「国際開発のプロ」である。
青年海外協力隊ではない。
そのため国際協力を志すならば、まずは青年海外協力隊の制度を理解しなければいけない。
また青年海外協力隊の現状も把握するべきである。
そこで、今回は国際協力に興味を持つ若者に向けて、青年海外協力隊の問題と実態を紹介したいと思う。
【追記】青年海外協力隊についてガチで詳しく解説しよう
青年海外協力隊について、経験者がガチで詳しく解説する記事を書いた。
青年海外協力隊に興味がある人には、ぜひ一度読んでほしい。
参考:JICA青年海外協力隊とは?ボランティア経験者がガチで徹底的に解説する
青年海外協力隊の問題・実態を紹介します
1.合格後や訓練中に辞退するボランティア
青年海外協力隊の試験に応募し合格しておきながら、辞退する人がいる。
合格者が参加を辞めることで、その隊次ではJICAボランティアを派遣できなくなる。
次の隊次とは三か月後である。
ボランティアの派遣が遅れれば、その分だけその地域への支援が遅れることになる。
さらに、新しい協力隊員の採用にまた費用と時間がかかってしまう。
だから、ぼくは「辞退するくらいなら、最初から青年海外協力隊の試験を受けるな!」と声を大にして言いたい。
辞退者が出るタイミングはさまざまである。
合格直後の場合もあるし、派遣前訓練直前、派遣前訓練の最中、そして派遣前訓練終了後から任国への派遣までの間である。
いずれにせよ、JICAにとって面倒であることに変わりはない。
しかし、辞退者が出た場合には、補欠合格者が繰り上げ当選することもある。
補欠合格者とは、辞退者が出た時のために「仮採用」にしている受験者のことである。
そのため、もし辞退するならば、出来るだけ早くJICAに連絡するべきだ。
【追記】ぼくの友人のカルロスさんが協力隊を辞退した
カルロスさんが派遣前訓練の最後に、協力隊の派遣を辞退した。
カルロスさんが辞退した理由と経緯は、こちらの記事を読んでほしい。
参考:【特別寄稿】宮﨑大輔に支えられた、カルロスの青年海外協力隊、辞退までの道のり
2.ボランティアの活動期間を任期短縮する
青年海外協力隊の2年間の任期を全うせずに、任期を短縮する人がいる。
任期を短縮することを、青年海外協力隊では「任短(にんたん)」と呼んでいる。
任短と気軽に呼ばれるほど、その頻度は高い。
ぼくの同期の平成25年度一次隊でも、すでに数名の任期短縮者がいる。
理由はさまざまだ。
活動がうまくいかないから、他にやりたいことが見つかったから。
身体的・精神的な問題、人間関係のトラブル、JICAの規律を違反したなどである。
個人的な理由で任期を短縮することは、推奨されない。
なぜならば、JICAや配属先、活動先などの関係者に迷惑がかかるからだ。
しかし、そのボランティアが派遣先で問題を起こしている場合には、すぐに強制送還されるべきである。
ボランティアとして派遣されておきながら、派遣国にとってマイナスな存在になってはいけない。
派遣前訓練で駒ヶ根訓練所の所長から言われた言葉を、ぼくは今でも覚えている。
派遣国にとって、プラスになるような活動が出来なくても構いません。
しかし、絶対にマイナスになるような事はしないでください。
by 駒ヶ根訓練所所長
今でも訓練所の所長の言葉を常に意識して生活している。
3.ボランティア活動せず遊んでいるだけの隊員
青年海外協力隊は、開発途上国の問題を解決するために派遣されている。
しかし、問題を解決するために活動せずに、ただ遊んでいるだけの隊員もいると言われている。
最初は活動に真面目に取り組んだが、活動がうまくいかずやる気をなくしてしまう。
そして、途中からは活動に取り組まなくなる隊員がいるのだ。
また、最初から活動に取り組まずに、旅行をしていたり、ゲームをしていたり、お酒を飲んでいるだけのボランティアもいるそうである。
日本で青年海外協力隊というと、青年海外旅行隊と揶揄されたりするが、あながち間違いではない。
青年海外協力隊の事業は世間から「税金の無駄遣い」という批判を受けている。
でもそのような隊員がいる限りしょうがないだろう。
ボランティアとは従業員ではないので、JICAから命令を受けることはない。
ボランティアはあくまで自主的に、ボランティア活動に参加しているのである。
だからこそ、ボランティア活動を行う気がないボランティアはボランティア失格だし、すぐに日本に帰国するべきだ。
ただ海外に住みたいだけの人は、語学留学とかワーキングホリデーとかに参加するべき。
留学やワーホリのメリット、必要なお金についてはこちらの記事にまとめたので、ぜひ読んでもらいたい。
参考:海外に住みたいだけの青年海外協力隊志望者は留学かワーホリしよう
4.現地人女性を妊娠させる男性隊員
残念ながら「青年海外協力隊が現地人女性を妊娠させた」という話もよく聞く。
ぼくは青年海外協力隊に参加する前に、知らないおじさんからこのことについて「いったい日本の税金を使って、何をしに行ってるんだ!」と怒られたことがある。
もちろん、青年海外協力隊員も人間だから恋愛をする権利がある。
しかし、人間社会では「男女関係」が問題の種になるし、しかもそれが国を隔てていると話はさらにややこしくなる。
最近も青年海外協力隊の父親を持つフィリピンの国際孤児が問題になっている。
マリコ・ラモスさん(36)は3年前に来日し、岡山市で働く。
父はフィリピンに来た青年海外協力隊の ボランティア。
妊娠した母を残し、日本に戻った。マリコさんは高校生で父を捜し始めた。
父は「養育費は払うが認知はできない」とかたくなだった。
法的手段 をとり認知が認められたが、連絡は途絶えた。
「日本での彼の名誉と家族を守るための行動だとわかったが、私はとても傷ついた」
東京)「幸せになる権利ある」 日比国際児、思い語る:朝日新聞デジタル
マリコ・ラモスさん(36)は3年前に来日し、岡山市で働く。父はフィリピンに来た青年海外協力隊のボランティア。妊娠した母を残し、日本に戻った。マリコさんは高校生で父を捜し始めた。父は「養育費は払うが認知 …
青年海外協力隊では、任期中に派遣先の人間と結婚することを禁止している。
しかし派遣期間が終了すれば、自由に誰とでも結婚できる。
そのため、日本に帰国後に現地の女性を日本に連れ帰る男性もいる。
ぼくは国際結婚には賛成なので、ボランティアも大いに現地人と恋愛をしたらいいと思っている。
もちろん、恋愛は活動に支障をきたさない範囲で、そして活動期間中の結婚と妊娠はダメだ。
参考:ついに和風だし顔の日本人ボランティアにもモテ期がきた!青年海外協力隊の現地人女性との恋愛事情
参考:JICAボランティア同士のカップル、結婚の秘密!青年海外協力隊の新人隊員は、先輩隊員に恋をする。
青年海外協力隊の実態を知りたい人には、こちらの過激本がおすすめ。
JICA関係のブラックなことがたくさん書かれている…….
5.任期中に妊娠する女性ボランティア
青年海外協力隊の男女関係というと、必ず男性ばかりが問題にされるが、もちろん女性の問題もある。
派遣期間中に妊娠する女性隊員がいるのだ。
もちろん新しい命を授かることは素晴らしいこと。
でも任期中に妊娠した場合は強制送還されることになっている。
妊娠したら活動を続けることが出来ず、JICAにも配属先にも迷惑がかかるのだ。
父親は協力隊員だったり、現地の男性だったりケースバイケースだろう。
恋愛をすることは自由だが、活動に支障が出ないように注意すべきだ。
もちろん恋愛の問題は、男女両方に責任があると思う。
6.病気に罹り入院するジャイカボランティア
最近は、アフリカを中心にエボラの感染流行が話題になっている。
また、日本でもマラリアが発生したことも大きなニュースになった。
エボラが感染拡大中のアフリカには、たくさんの日本人ボランティアがいる。
そして、アフリカに派遣されたボランティアの多くが、派遣後半年以内にマラリアに感染して倒れた。
派遣された直後にfacebookを見ていると、次々とアフリカの同期隊員がマラリアで倒れた報告をアップしていて驚いた。
そして、ぼくが活動する中米のパナマ共和国でもマラリアは蔓延している。
ぼくが住む村でもマラリアに感染した蚊が見つかっているし、毒を持ったタランチュラやサソリ、ヘビがたくさん住んでいる。
エボラやマラリアだけでなく、熱帯性のヤバい病気が発展途上国には多く蔓延している。
そのため、青年海外協力隊の多くが、派遣期間中になんらかの病気に罹ってしまう。
大きな病気に罹ると病院に入院し、体調が改善しない場合は近くの先進国の病院へ入院。
そして最悪のケースは日本に強制送還される。
発展途上国の医療レベルは総じて低いので、日本のようなハイレベルな医療を受けることは出来ない。
そのため、青年海外協力隊の中には病気で命を落とす隊員もいる。
7.事故に遭い大怪我を負う青年海外協力隊やシニアボランティア
発展途上国は日本とは、生活環境の安全レベルが違う。
例えば、ぼくが働く農牧省の業務車のタイヤのボルトは、6本中3本しか止まっていない。
タイヤはバースト寸前である。
いつタイヤが脱輪もしくは破裂して、大事故になってもおかしくない。
今年はぼくの村でバスの交通事故が起きて、10名以上の村人が亡くなった。
そのバスは近くの町と村を繋ぐバスで、ぼくは毎週2回は利用している。
JICAボランティアの死亡原因の割合は、「交通事故」が多い。
途上国で利用するバス、自家用車、船、電車、飛行機などすべての乗り物が、日本で利用する場合よりも高い確率で事故を起こす可能性がある。
そして、交通事故だけでなく休暇中の事故もある。
先日も南アフリカで青年海外協力隊1名が登山中に事故で亡くなった。
彼は訓練所は異なるが、平成25年度一次隊の同期隊員であった。
南アフリカ南西部ケープタウンの観光名所テーブルマウンテンで9日、男性登山客の遺体が見つかり、国際協力機構(JICA)は10日、青年海外協力隊員の 井坪圭佑さん(23)と確認されたと明らかにした。
現地の救急当局は、下山の際に足を滑らせて30メートル下に転落して死亡したとみている。
引用:毎日新聞ウェブ版
発展途上国での生活は、日本よりも少し死の存在が身近である。
参考:青年海外協力隊の任期中にパナマで死ぬとしたら、死因は交通事故だろう。
追記:JICAの安全対策で学んだことをまとめみた
青年海外協力隊から帰国して一年経ち、JICAの安全対策で学んだことをまとめみたいので、ぜひ読んでみてほしい。
参考:青年海外協力隊の2年間でJICAから学んだ海外で身を守る安全対策まとめ
8.精神的に病んで自殺する人も
青年海外協力隊の派遣前訓練中に、JICAボランティアの死亡件数と死亡原因のデータを見せてもらった。
そのJICAボランティアの死亡原因に、「自殺」という項目があった。
割合は低いが、任期中に自殺を選択するJICAボランティアがいるのだ。
異国で、一人で、活動することは、正直辛い時もある。
家に帰っても悩みを聞いてくれる家族はいないし、愚痴を聞いてくれる友達もいない。
現地人との間には言語の壁もあるし、文化の壁もある。
ストレスを発散させるカラオケも居酒屋もない。
部屋の外に出れば、「中国人だ」と差別を受ける。
活動に熱中するあまり、派遣先の上司と人間関係のトラブルになる場合もある。
2年間という期間中は、基本的には日本に帰ることも出来ないし、自由に行動できない。
実はボランティアで「ストレスによる精神病にかかる人」は多い。
日本に強制送還されて完治する場合もあるし、そのまま任期短縮になる場合もある。
最悪のケースは、自殺という結果になる。
9.日本へ帰国後に燃え尽き症候群になる協力隊OB
青年海外協力隊の問題の一つが、燃え尽き症候群になることだ。
まるで甲子園に出場し部活の引退後に何もやる気が出ない高校球児のように。
青年海外協力隊から帰国後に何もやる気が出なくなってしまう人がいる。
燃え尽き症候群になる隊員は、「子供の頃から青年海外協力隊になるのが夢だった!」という熱い意欲に燃えた隊員が多いと思う。
参考:受験を決めたのはいつ?子供の頃から青年海外協力隊が夢でした vs 協力隊を目指したのは大人になってから
将来の夢として青年海外協力隊を志し、実際にその夢を叶えてしまった。
そのせいで、次の夢が見つからず就職活動に対する意欲がなくなってしまう。
活動に熱中してしまうことも、あまりにも度が過ぎると良いとは言えない。
そのため、JICAの派遣前訓練では、「青年海外協力隊に参加することを目標とせず、その先の進路を考えなさい」と言われた。
そして、帰国後の進路に関する講義も受けた。
10.日本へ帰国後に就職できずニートになる協力隊OBOG
青年海外協力隊の問題として、「日本帰国後に就職できない」ことが挙げられる。
日本企業の多くが、青年海外協力隊の2年間を評価しない。
青年海外協力隊の活動期間を「空白の2年間」もしくは「遊んでいた2年間」としてマイナス評価するからだ。
その結果、青年海外協力隊に参加後に就職先が見つからず、フリーターになってしまう人がいる。
実際、ぼくも帰国後しばらくは「実家でニート」になった(笑)
参考:青年海外協力隊から帰国後にニートになったので、#ニートにしかわからないことをツイート中です
帰国後の就職活動では、青年海外協力隊の活動よりも青年海外協力隊に参加前の仕事をアピールした方が良いらしい。
そのため、新卒で青年海外協力隊に参加した隊員は、社会人経験がある隊員よりもさらに就職活動は難しくなる。
JICAが毎月発行しているボランティア冊子のクロスロードには、毎月必ず就職活動のコーナーがある。
青年海外協力隊の就職率の低さが、JICAの悩みの種なのだろう。
特にヤバいのが「新卒」で青年海外協力隊に参加する人
ぼくのように新卒で青年海外協力隊に参加する人は、帰国後の就活でめちゃくちゃ苦労するので本気で就活した方がいい。
実際、新卒隊員だったぼくは帰国後に日本の一般企業を受けて、見事に書類審査で落ちました(ノД`)・゜・。
新卒で青年海外協力隊に参加したぼくは、面接試験を受けることすらできなかった……
予想以上に日本企業は協力隊OBOGに対して、冷たい。