2年前にクビ宣告を受けた青年海外協力隊が、配属先のトップに最終報告を行ったら
2015年6月8日に、配属先である農牧省のベラグアス県事務所のトップと重役たちに対して、2年間のボランティア活動の最終報告を行った。
実はぼくは2年前の赴任直後に役に立たな過ぎて、「日本へ帰れ!」とクビ宣告を受けたことがあった。
しかし、最終報告を配属先のトップへプレゼンすると、「君を○○したい」と言ってくれた。
今回はどのような経緯で最終報告を行うことになったのかと、どのような内容を話したのかを紹介しよう。
配属先の重役たちを相手に最終報告会を実施するまでの道のり
配属先の重役たちに最終報告を実施したのは、あちらからの要求ではなくぼくからの要望だった。
1.目的は、権力者に青年海外協力隊の活動を知ってもらうこと
先月JICAから「配属先で最終報告をするなら日付を連絡してください。これは強制ではなく、自由です」という連絡が来た。
最初は配属先のカニャーサス郡支所で最終報告をしようかとも思ったが、ここで働いてる農業技師たちは組織の一番下っ端なので何の権力もない。
組織の下っ端に青年海外協力隊の活動を知ってもらっても、無電化集落の村人の頑張りを知ってもらっても、何も変化は生まれないことは縦社会のパナマで2年間働いてよくわかっている。
そこで「プレゼンをするならば影響力を持った権力者に対して行いたい」と思い、ぼくの配属先である農牧省のベラグアス県のトップに対して最終報告をしようと思いついた。
2.配属先の直属の上司経由で申請
思いついたはいいがベラグアス県のトップとは、ぼくの上司の上司の上司の上司くらい雲の上の人で、ぼくは一度も会ったことがなく顔も名前も知らなかった。
もちろん、トップもぼくの存在すら知らないし、実はJICAのことも知らなかった。
最初はJICA経由で申請をしようかと思ったが、配属先の所長が「農牧省の上司なんだから、俺から申請する」というのでぼくが申請書を作成し、上司に託すことにした。
しかし、予想していたことだが上司は一向に申請書をトップに提出しない。
彼が口だけなのはわかっていたので、何度も提出を促して2週間後にようやく提出してくれた。
それから1週間待ってもトップから返事がないので、所長経由で返事を催促してもらった。
この時点では、トップが存在すら認知していない日本人ボランティアのプレゼンを聞いてくれるかわからなかったが、とりあえず申請してみた。
すると、トップから「たまたま首都への出張がなくなったから、8日の朝だけ空いている」と突然連絡が来て、6月8日にプレゼンをすることになった。
3.プレゼンを準備
「どうせ、トップには最終報告できないんだろ~な~」とのんびりとしていたのでこの急な決定に焦ったが、すぐに最終報告プレゼンを作成した。
帰国直前に実施する予定のJICA向けの最終報告プレゼンを農牧省向けに改良し、何とか間に合わせることができた。
ベラグアス県サンチアゴの農牧省事務所で、重役を集めてプレゼンした
6月8日にサンチアゴという都市に行き、農牧省の事務所で重役たちを集めてプレゼンを行った。
1.予想通り姿を見せない所長
農牧省のトップに対して行う最終報告には、ぼくの上司であるカニャーサス郡支所の所長も参加することになっていたが、当日時間になっても姿を現さなかった。
ちなみに7時集合だと言われたので、ぼくはパナマ人の時間感覚を考慮して8時に到着したが、実際にプレゼンが始まったのは9時半だった。
参考:中南米で感じる仕事の遅さ、効率の悪さ、時間のルーズさ!時間泥棒は誰だ?
事務所で待っていると、所長の代わりに別の同僚が現れて「所長は服にコーヒーをこぼしたから来ないそうだ(笑)」と言っていた。
仕方がないのでぼくとその同僚のふたりで、ベラグアス県のトップのもとを尋ねた。
2.トップと各部門の代表者を集めてプレゼン
ベラグアス県のトップには初めて会うので緊張していたが、気さくな人だった。
とりあえず簡単な自己紹介と今回時間を作ってくれたことへの感謝の言葉、そして最終報告の目的を説明すると、「じゃあ、他の重役にも聞かせよう」と言いすぐに各部署の代表者を4名呼んだので、合計5名の重役たちにプレゼンを行うことになった。
3.プロジェクターなしでパソコン画面を見せながら
プロジェクターを使わせてもらう予定だったが、プロジェクターが故障中とのことで急きょパソコン画面を見せながらプレゼンすることになった。
日本ならば慌てるところだが、パナマではプロジェクターが故障していることは当たり前のことで過去にもこういうことはあったので、全然動揺しなかった。
こんなこともあろうかと、スライドの文字は30ポイント以上の大きさで、写真も大きく使っていた。
最終報告に対する重役たちの反応
最終報告に対する重役たちの反応をお教えしよう。
1.最初は下ネタ
プレゼンが始まる前にトップは「パナマの女と日本の女とどっちがいいんだ? パナマには女が何人できた?」とパナマ人恒例の質問を聞いてきたので、すぐにカトリック教徒だとわかった(プロテスタントはいきなり下ネタを話さないから)。
彼はJICAのことも知らないし、ボランティアにも全然興味がない様子だった。
2.見たことがない農業技術に興味津々
しかし、プレゼンでぼくがカニャーサス郡で普及した農業技術を紹介すると、トップや重役たちは興味津々になっていた。
やはり農牧省の職員だけあって農業技術への関心は高く、スライドを食い入るように見つめいていた。
そして、発表中は5名から質問攻めにあった。
2年前はスペイン語が話せないしパナマの農業のことを何も知らなかったが、今は幹部たちの質問の意味もすべて理解できるし、すべての質問に的確に答えることができる。
今回のプレゼンはJICAの最終報告で使う内容がベースになっているが、農業技師向けに農業技術を多めに紹介していたので、よいリアクションを得られたのだろう。
プレゼンを行う時にはプレゼンを聞く相手のことを調べることが重要だと再認識した。
参考:プレゼンが苦手な人でも効率的にスライド資料をパワポで作成できる方法&人前で上手に話す秘訣
特に興味をひいたのは、トマトの脇芽栽培とキャベツの追肥実験と空心菜についてだった。
参考:えっ、1本のトマトが5本に増える!?家庭菜園でトマトの脇芽から挿し木苗(挿し芽苗)を無限に増やす栽培方法とコツ
参考:青年海外協力隊にクビ宣告をした上司に実験の報告書を提出すると?
参考:空心菜の栄養価&家庭菜園向けの簡単な栽培方法・挿し木増殖&美味しい炒め物レシピ
3.「君を雇いたい」「すべての農業技師の前でプレゼンしてほしい」
30分ほどかけて最終報告プレゼンを行った。
そして最終報告が終わるとトップの口から、予想だにしない言葉が飛び出した。
トップ:「今月日本へ帰国すると言ったね? 君にこのまま農牧省で働き続けてもらうためには、どうしたらいいんだ?」
ぼく:「えっ?(スペイン語の聞き間違いかな…..)すみません、もう一度言ってください」
トップ:「だから、君を雇い続けたいんだ!」
ぼく:「えっ!?」
まさかトップから雇い続けたいと言ってもらえると思ってもみなかった。
これは最高の褒め言葉だと思うし、2年間の活動を認めてもらえてとても嬉しかった。
思い返してみると、ぼくは赴任直後にはスペイン語が全く話せないことが原因で、配属先の所長から「もう日本へ帰れ!」とクビ宣告を受けたことがあった。
参考:「日本に帰れ!」の一言がなかったら、今頃ぼくは日本に帰っていただろう。
所長からクビ宣告を受けてから2年後には、組織のトップから働き続けてほしいと言ってもらえるまでになったのだ。
ただし青年海外協力隊は日本へ帰国しないといけないので、それを説明して断った。
しかし、今になって思い返してみると、パナマの農業の発展のために今後の人生を捧げることは最高に楽しそうだ!
さらに、「このプレゼンをぜひ他の農業技師たちにも見せたい。金曜日にすべての農業技師を集めた会議があるから、その時にさらに詳しい農業技術のプレゼンをしてもらえないか?」という依頼も受けたので、もちろん快諾した。
今週の金曜日には50名の農業技師に、ぼくがカニャーサス郡で普及した農業技術を教える予定なので、今はその準備をしている。
そして、これがぼくが農牧省のトップに行った最終報告のスライドである。
スペイン語で書かれているし配布用ではなく、プレゼン用なので文字の説明が少ないが、何となく内容は分かってもらえると思う。
まとめ
組織への影響力がある人にボランティア活動を知ってもらいたかったので、配属先の農牧省のベラグアス県のトップとその重役たちに最終報告プレゼンを行った。
重役たちはぼくが教えた農業技術に興味津々で、50名の農業技師にプレゼンする依頼も受けた。
そして、トップからは「引き続き君を雇いたい」と言って頂け、クビ宣告を受けた赴任直後とは打って変わって、2年間の活動が認められて嬉しかった。
金曜日に行うプレゼンでは「ある特別な狙い」もあるので、そのためにしっかりと準備したい。