青年海外協力隊の帰国直前に50名の農業技師へ野菜栽培のプレゼンをした真の目的
2015年6月12日にぼくが住む県内で働く50名の農業技師に対して、野菜栽培の技術を教えるプレゼンを行った。
これは配属先の県トップからの依頼により行ったものだが、この依頼を引き受けたのには野菜栽培の技術を教える以外に、「隠れたある目的」があった。
その目的を達成するためにプレゼンのスライドを作り直し、そして50名の農業技師へ発表を行った。
そこで今回は、農業技師に行ったプレゼンの様子と隠れたある目的を紹介しよう。
配属先の県トップにプレゼンしたら、プレゼンの依頼を受けた
そもそも、今回のプレゼンの依頼を受けたのは、県のトップへ最終報告を行ったときに依頼を受けたからだった。
１．配属先の県幹部へ最終報告を行い、農業技師に対するプレゼンの依頼を受けた
2015年6月8日に、JICAボランティアの最終報告を配属先の農牧省のベラグアス県のトップと幹部に対して行った。
その時の様子は、こちらの記事を読んで欲しい。
参考：2年前にクビ宣告を受けた青年海外協力隊が配属先のトップに最終報告をしたら「君を○○したい」と言われた話
この発表を聞いた県トップから「他の農業技師に対しても、農業技術を教えてほしい」と依頼された。
そのときぼくの心には、他の農業技師に対しても農業技術を教えたいという想いと、もうひとつ別の思惑が浮かんでいた。
そして、この依頼を引き受け、4日後の会議でプレゼンを行うことになった。
２．野菜栽培に的を絞ってプレゼンを作成
県の幹部に行った最終報告には、JICAの紹介やぼくの活動地域の紹介、栄養不足の話、所得向上活動の話も含まれていたが、今度のプレゼンの相手は農業技師だけなのでそれらをカットすることにした。
代わりに幹部たちが関心を示していた①トマトの脇芽栽培、②キャベツの追肥実験、③空心菜の紹介に的を絞り、詳しく解説することにした。
参考：えっ、1本のトマトが5本に増える!?家庭菜園でトマトの脇芽から挿し木苗（挿し芽苗）を無限に増やす栽培方法とコツ
参考：青年海外協力隊にクビ宣告をした上司に実験の報告書を提出すると？
参考：空心菜の栄養価＆家庭菜園向けの簡単な栽培方法・挿し木増殖＆おすすめの沖縄風ニンニクシーチキン炒めのレシピ
県内の農業技師50名に野菜栽培のプレゼンを実施
農業技師が集まる会議に参加し、50名以上のパナマ人に野菜栽培の技術を教えた。
１．県内12の郡から農業技師が50名以上集まり会議
農業技師の会議には、ベラグアス県内の12の郡のすべてから農業技師が集まった。
（１）農業技師とは
農業技師とは、農業系の大学を卒業した「農業専門技師」と、高卒もしくは農業系の専門学校を卒業した「一般技師」を合わせた名称である。
なので、農業技師といっても農業の知識と経験には大きな個人差があり、立場も全然違う。
大学を卒業した専門技師は給料も高く管理職へ出世できるが、高卒は給料が安く絶対に出世できない。
パナマの田舎に行くと、大学を卒業しただけで名前ではなく「学士様」と学位で呼ばれるようになる。
ちなみに農牧省では修士号や博士号を持っている人に会ったことはないが、パナマの農業研究所には修士号や博士号を持った職員がいて、品種改良やメリクロン苗を作っているそうだ。
しかし、ぼくの村では修士号という言葉の意味を知っている人は全然いない。
（２）赴任後、最初に来た会議室
今回の会議で使った会議室は、ぼくがこの地域に赴任して最初に来た会議室だった。
ここでぼくのボランティア生活が始まり、そして幕を閉じたのだ。
最初の会議に参加した時にはスペイン語が話せなかったので、98％は意味不明で2%しか理解できなかった。
しかし、今はぼくがプレゼンターになっているし、他の人のプレゼンも98％は理解できるようになった。
2年間で成長を実感した。
２．プレゼンターは3組
今回の会議ではプレゼンターは3組だった。
・トップバッターは、ぼく。
・2番手は、郡内で活動している農業技師。
・3番手は、なんとブラジルの大学教授と獣医のコンビだった。
しかも、会議の最後には、障がい者と老人を支援するNGOが講演をした。
今回はプロジェクターを使ってスライドを壁に写して発表した。
最初、会議室には50名ほどしかいなかったが、遅刻してくる人や途中で出入りする人が多く、合計すると80名ほどの農業技師が参加していた。
３．パナマ人のプレゼンテーションと聞き手
まずはパナマ人のプレゼンテーションのやり方と、聞き手の様子をお知らせしよう。
（１）2番目に発表したパナマ人のスライド
これが2番目に発表したパナマ人のスライドである。
このようにびっしりと文字を書くのがパナマの一般的なスライドである。
そして、ここに書かれていることの10倍以上のことをまくし立てる。
（２）ブラジルの大学教授と獣医のスライド
これがブラジルの大学教授と獣医が発表したスライドの表紙。
驚いたのは、左側の写真はすべてのスライドに表示されており、変わるのは右側の文字だけだったことだ。
（３）NGOの発表
NGOはアニメーションだらけのスライドと、動物の鳴きマネゲームを取り入れていた。
そして、この男性のプレゼン方法は、ザ・パナマ人のプレゼンだったので紹介しよう。
彼のように大きく身振り手振りを使って感情的に訴えかけるのがパナマ人のプレゼンの特徴だ。
そして、聖書からの引用などキリスト教徒の教えを使うことが多い。
動画を撮ったのでぜひ見て欲しい。
松岡修造バリの熱さを感じる。
（４）聞いている人もめちゃくちゃ発言する
パナマのプレゼンと会議の特徴は、聞いている人もめちゃくちゃ発言することだ。
とにかくみんな手を上げたり、勝手に立ち上がって話し出す。
しかも、プレゼンとは全然関係ないことを話す人も多い。
（５）勝手に立ち去る
パナマ人は会議中でも、興味がなくなると勝手に立ち去る。
スマホをいじるのは当たり前だし、電話にも出て会議室の中で話し続ける。
トマト、キャベツ、空心菜についてのプレゼン
ぼくは50名以上の農業技師に対して、3つの野菜栽培の技術をプレゼンテーションした。
１．発表の様子
ぼくの発表時間は50分ほどで、主に3つの内容について話した。
（１）トマトの脇芽栽培
まずは、トマトの脇芽栽培について。
ぼく 「トマトを育てるためには、種が必要だよね？ でも実は脇芽を使えば新しい苗が作れるんだよ」
パナマ人 「またまた、ジャパニーズジョークでしょ！？」
ぼく 「この手順で苗を増やせます」
パナマ人 「すげー！！」
（２）キャベツの追肥実験
次に、キャベツの追肥実験について。
ぼく 「キャベツが大きく育たないのは、暑いからじゃありません！」
パナマ人 「えっ、マジ！？」
ぼく 「キャベツを育てるときに、紐で縛る必要はありません！」
パナマ人 「そうだったのか……」
ぼく 「キャベツに追肥をすれば、1.4倍大きくなります」
パナマ人 「おぉー！！」
（３）空心菜の栄養素、育て方、食べ方
最後に空心菜の栄養素、育て方、食べ方の紹介。
ぼく 「空心菜はホウレン草よりも栄養価が高いです。ポパイよりも強くなれます」
パナマ人 「へぇー」
ぼく 「しかも、栽培は超簡単です。種も簡単に採れるし、勝手に増えます」
パナマ人 「ほうほう」
ぼく 「しかもしかも、めっちゃ美味しいです」
パナマ人 「育ててみたい！」
発表に使ったスライド
今回の農業技師向けには、こちらのスライドを使った。
スペイン語で書かれているが図と写真が多いので、スペイン語が分からない人でもなんとなくわかってもらえると思う。
プレゼンを聞いたパナマ人から「こんなの初めて…！」と言われた。
パナマでは文字だらけのスライドと喋りまくる発表が当たり前なので、図形や写真がメインのスライドに沿って論理的に発表するスタイルにビックリしたそうだ。
２．参加者の反応
発表中は質問タイムでもないのに、ガンガン質問を受けた。
そして、各章の間に質問タイムを設けると、毎回10名以上から質問を受けた。
この部屋の中にいるのは全員が農業技師なので、農業に関する話は盛り上がった。
例えば、
・トマトの脇芽挿しの生存率は？
・脇芽挿しは他の野菜でも使えるのか？
・トマトの収量は落ちないのか？
・キャベツの肥料は何を使ったのか？
・なぜ、MIDAの農業技師は追肥を教えなかったんだ？
・空心菜を育てるなら、日向と日陰のどっちがいい？
・空心菜のレシピをもっと教えてくれ
などなど。
こんなこともあろうかと、ぼくは仕事所の相棒であるカウンターパートに事前に協力をお願いしてあった。
実は参加者とぼくの間で少し食い違いが生じた場面があったが、そこをすかさず相棒がうまくまとめてくれた。
当日は彼も一緒に発表の場に立ち、ぼくの発表後に簡単な講演を行った。
３．空心菜の苗を配布
会議が終了したあとには、空心菜の苗をひとり1株ずつ配布した。
ちょうどぼくは郡内で空心菜の苗100株普及活動を行っていたので、そこから50株を会議用に持って行った。
空心菜の苗は好評で、あっという間になくなった。
これでベラグアス県内の12の郡で空心菜栽培が始まることになった。
空心菜の普及がとんでもない勢いで広がっている！
参考：もしかしたら、パナマのある村が「ニホンノホウレンソウ村」と呼ばれる日が来るかもしれない……
プレゼン本当の目的は、2年間お世話になった相棒へのお礼
今回のプレゼンを引き受けた本当の目的は、2年間お世話になった相棒へのお礼のためだ。
１．日本人のように真面目なカウンターパート
ぼくの仕事上の相棒であるカウンターパートは、超真面目な男だ。
年齢は50代でぼくの父親よりも少し若いくらいの年齢だ。
「なぜ、君はパナマに生まれたんだ？ 生まれる場所を間違えている、君は日本に生まれるべきだった」とぼくはいつも彼に冗談で言っているのだが、それほどまでに真面目なのだ。
パナマ人というよりも、日本人に近い。
しかも、彼はJICAの有機農業の研修のために日本に3ヶ月間住んでいたことがあり、日本人と日本文化にも詳しい。
参考：ピンピンコロリと死にたい！長野県下伊那郡高森町の瑠璃寺の生き方・働き方・死に方スローガン
参考：なぜ日本人は金持ちなのに不幸なのか？青年海外協力隊と日本好き外国人の意見
２．真面目すぎて左遷の危機
そんな相棒が現在、左遷の危機に陥っている。
原因は彼が真面目すぎて、新しい所長とケンカをしているからだ。
ぼくの相棒は新しい所長のいい加減な仕事のやり方にキレてしまい、最近の職場は悪い空気が流れている。
そして、そのせいで彼は別の郡へ左遷される可能性が出てきた。
彼はめちゃくちゃ農業のことに詳しくて超優秀な農業技師なのだが、学歴がないので農牧省の中では超下っ端なので職場を選ぶ権限がないのだ。
彼は農業系の専門学校を卒業しただけで、大学を卒業していないので農業専門技師ではない。
どんなに優秀でも学歴がなければ絶対に出世はできない。
３．相棒の実力を知ってもらいたい
相棒を出世させたいとは思わないが、ただ相棒の実力を知ってもらいたいと思った。
そこで、今回のプレゼンを引き受けて、上司の前で相棒と一緒にプレゼンすることにしたのだ。
プレゼン中には「ぼくの技術はすべて相棒に伝えました。日本の技術を知りたい人は、彼から教えてもらってください」と繰り返し紹介した。
プレゼンの最後には彼が講演をする時間を作り、彼が日本の研修で学んだこととぼくとの2年間で学んだことを話してもらった。
これだけ彼の所属先が変わるとは思えないが、彼が優秀な農業技師ということだけはどうしても知ってもらいたかった。
本来ならば彼のような人物が出世するべきだと思うが、パナマで出世するのは高学歴で政治家と仲が良い人間だ。
日本の農業技術を熟知している相棒が、これからもパナマの農業を改善してくれることを願っている。
まとめ
パナマ国ベラグアス県で働く50名の農業技師に、トマト、キャベツ、空心菜の栽培の技術を教えた。
予想以上に興味を持ってくれ、活発な議論をすることができた。
そして裏の目的は、カウンターパートである相棒の能力を上司たちに知ってもらうことだった。
相棒にはこれからもパナマの農業の発展のために働いてほしい。
