伝統的な稲作の調査
最近、ぼくは伝統的な稲作の調査を行っている。
パナマの山間部では今でも焼畑農業で作物栽培が行われており、イネ、トウモロコシ、イモ類、マメ類が混植栽培されている。
作物の中でも特に「イネ」に注目して調査を行っている。
参考:19回目の農村滞在にJICAのカメラマンも同行し、学校菜園と家庭菜園と焼畑稲作の調査をした。|JIBURi.com
イネの研究を始めてからというもの、ぼくは会う人会う人全員にイネの話をするようになった。
そのせいで農牧省の同僚からはウンザリされているが、おかげでいろんな情報が集まるようになった。
同期の野菜栽培隊員からの情報
ぼくには、パナマの別の任地に同期の野菜栽培隊員がいる。
彼は一眼レフカメラを持ち写真撮影が得意なので、カメラ隊員でもある。
ついでにいうと、彼は猫好き隊員でもあるし、アビスパ福岡好き隊員でもある。
そんな彼にも稲作の調査について相談してみた。
ぼく :最近、イネの調査をしてるんだよね。君の任地でもイネ栽培してる?
アビスパ福岡:してますよ。
ぼく :そっちも焼畑農業?
アビスパ福岡:いえ、湖で栽培してます。
ぼく :えっ!?何それ!面白そう!見学しに行ってもいい?
アビスパ福岡:いいとも~!
という流れで、同期の野菜隊員の任地に稲作の調査をしに行くことになった。
彼の任地は首都のパナマシティの近くにある「チャグレス国立公園」で、彼は農業技師として環境省に配属されている。
ぼくの任地からバスで5時間かけ首都まで移動し、湖の稲作を見学して来た。
アラフエラ湖畔の稲作調査
稲作が行われている地域は、アラフエラ湖という湖だそうだ。
チャグレス川が流れ込む湖らしい。
ぼくは首都から遠く離れた田舎の村に住んでいるので、首都周辺の情報にはかなり疎い。
そこで、同期の彼に見学の案内をお願いした。
アラフエラ湖へ
パナマシティからバスで一時間、その後バスを乗り換えさらに40分ほどでアラフエラ湖の船着き場に到着した。
天気はあいにくの雨。
船着き場の船は、エンベラ族というパナマの少数民族であるインディヘナの観光名所に、観光客を運ぶためのものだそうだ。
ぼくたちもこの船に乗り、対岸の集落まで運んでもらった。
住民の家へ
対岸の緑色の場所が、すでに稲作地帯である。
まずは集落にある民家にお邪魔し、住民から稲作の話を聞いた。
もちろん、最初に住民に自己紹介と今回の訪問の目的を伝え、失礼がないように注意した。
71歳とは見えない筋肉隆々のおじさんが、まずは稲作の話をしてくれた。
手前がぼくで、奥がカメラ隊員である。
ぼくたちは見た目が似ているし眼鏡キャラが被っているので、パナマ人からは間違えられることもある。
イネの調査
そして住民に対して、稲作の播種時期、収穫時期、品種名、他の作物の栽培などを聞き取り調査した。
ここではちょうどイネの収穫が終わったところで、収穫されたばかりの稲穂を持って来てくれた。
三種類のコメ
この家では、三種類のコメを栽培していた。
品種の違いは、コメの色である。
籾をむいてみると、米粒の色が明らかに異なることがわかる。
白色、赤茶色、黒色である。
日本では赤米や黒米が栄養が高い古代米としてブームになっているが、これも同じものだろう。
パナマでは赤米や黒米が栽培されていた!
コメの扱い
脱穀を済ませたコメを見せてもらった。
これは住民の食事用である。
これを見てぼくは驚いた。
住民はコメを混ぜていた。
ぼくは各品種を別々に扱っているかと思っていたが、彼らはそれらを混ぜて扱い、食事にも混ぜて使うそうだ。
残念ながら調理済みのご飯を食べることは出来なかったが、ぜひ食べてみたいものだ。
ご飯の色がどうなるのか、気になる…。
栽培地
ひとしきり話を聞いたところで、栽培地も見せてもらった。
アラフエラ湖の湖畔でコメを栽培しており、コメの隣ではトウモロコシも栽培していた。
「川が上流から栄養価が高い土を運んできてくれるから、無肥料で育つ」と住民は話していた。
非常に面白い農業だと思った。
山の焼畑農業とはやり方は違うが、自然の力を利用して無肥料でコメを栽培するという点は共通している。
「なぜ、その違いと共通点が生まれたのか?」と疑問に思う。
これはもっと深く調査する必要がありそうだ!!
稲作の歴史
そこで、おじさんにさらに突っ込んで質問をすることにした。
ここの伝統的な稲作について、ぼくはもっと知りたくなっていたのだ。
そして、農業の歴史について尋ねると、驚くべき答えが返って来た。
ぼく :ところで、いつからこの稲作をしているの?
おじさん:3年前からだよ。
ぼく :歴史、浅っ!!!!
アビスパ福岡:ここは人造湖ですからねぇ。
なんと、ここの稲作は伝統的な農法ではなかった。
予想外の事態にぼくの頭は混乱していた。
しかも、同期の野菜栽培隊員は「人造湖」と言っている。
アラフエラ湖の秘密
アラフエラ湖とは
アラフエラ湖についてググってみた。
アラフエラ湖はパナマのチャグレス川にある人造湖。
1935年に完成したマッデンダムによってガトゥン湖の上流に作られ、パナマ運河とつながっている。
アラフエラ湖に蓄えられた水は、閘門(カナルロック、水門で区切られた部分)に供給され、水位調整に使われる。
運河の水の45パーセントを供給している。
確かに、どのサイトを見ても「アラフエラ湖は人造湖」って書いてある…。
調査をする上で、事前調査が大切だとはわかっていたはずなのに、うっかり怠っていた。
参考:農業関係者へ!国内と海外の農場視察をする時に注意すべき3点|JIBURi.com
アラフエラ湖に調査に来る前に、下調べをしておくべきだった。
アラフエラ湖畔の農業
アラフエラ湖は、パナマ運河のために造られた人造湖であった。
以前はここの住民も焼畑農業を行っていたが、パナマ運河に確実に水を供給するために森林保護を行うことになり、この地域はチャグレス国立公園に指定され、焼畑農業が禁止されてしまった。
そして、最近では湖の湖畔を利用して、稲作を始めたらしい。
なので、アラフエラ湖の湖畔の稲作は伝統的な農法ではなかった。
残念…。
しかし、国立公園に指定され、焼畑農業が禁止されたことにより、農業のやり方を変化させた一例としては面白い事例だろう。
しかも、湖畔で育てている品種は、山の斜面で育てていたものをそのまま使っている。
まとめ
アラフエラ湖の湖畔の稲作の調査を行い、色が異なる3種類のコメを見つけた。
稲作の方法は焼畑農業ではなかったが、それは人造湖の形成による影響で伝統的な農法ではなかった。
しかし、稲作を環境の変化に対応させた例としては、興味深い農業を知ることができた。
これからは事前調査も行うようにし、伝統的な農業の調査を継続したい。