青年海外協力隊の要請内容
青年海外協力隊は、要請内容ごとに募集、採用される。
要請内容とは、就職活動でいう募集要項のようなものである。
すべてのJICAボランティアには、要請内容が記された「要請調査票」という物が与えられる。
要請調査票には、任地の状況と配属先が抱えている問題が書かれ、それに対して求められる活動が書かれている。
基本的にはボランティアは、この要望調査票に従って活動を行うことになっている。
しかし、発展途上国では政権交代により配属先が消滅したり、要請内容が事実とは異なるケースも多く、青年海外協力隊は臨機応変に対応しないといけない。
「派遣されてみたら、要請内容とは全然違う活動を求められて困った!」というエピソードは、青年海外協力隊あるあるである。
栄養改善プロジェクト
ぼくの場合は、青年海外協力隊の野菜栽培という職種で採用され、中米地域のパナマ共和国に派遣された。
そして、要望調査票に書かれた要請内容は、「栄養改善プロジェクトの農業分野への協力」である。
パナマに派遣される前には、「こんなことが書かれているけど、実際にはどうせ配属先が存在しなかったり、プロジェクトも機能していないんだろうな…….」と考え、要請内容に対して出来るだけ期待をしないようにしていた。
しかし、パナマの任地に派遣されてみると、意外や意外、栄養改善プロジェクトは要請内容に書かれていた通りの状況であった。
これはJICAパナマの業務調整員が優秀だからだろう。
栄養改善プロジェクトには、過去にも複数のJICAボランティアや専門家が関わっており、パナマ人スタッフの中には日本でのJICAの研修に参加したことがある人もいたおかげで、JICAとボランティアに対する理解があり、すでに協力体制が整っていた。
それに対して、ぼくの配属先である農牧省カニャサス郡支所は過去にJICAとの関わりがほとんどなく、ボランティアを受け入れるのも初めてだったのでJICAボランティアに対する理解がなく、赴任直後に所長から「日本に帰れ!」と怒られるほどだった。
ただし、農牧省の所長に厳しく育てられたおかげで、今のぼくがあるとも思っていて、彼には感謝している。
参考:「日本に帰れ!」の一言がなかったら、今頃ぼくは日本に帰っていただろう。|JIBURi.com
順調なボランティア活動
栄養改善プロジェクトでは、ボランティアの活動に対しても理解があったおかげで、順調に活動を始めることができた。
赴任直後からプロジェクトの巡回に同行し、農民に農業技術を指導することができた。
参考:青年海外協力隊・野菜栽培隊員としてポット育苗など苗作りを教えます。|JIBURi.com
そして、山奥の集落に滞在して活動するようになり、ボランティアとしての個人的な農業支援活動も開始した。
参考:21回目のコミュニティ宿泊で学校菜園の指導、家庭菜園の種配り、伝統稲作の調査を行った。|JIBURi.com
農業支援活動を行うことで、村人の暮らしや農業以外の問題についても知ることができ、子供の皮膚病の啓発活動や歯ブラシの普及なども行うようになった。
参考:途上国の子供の歯科衛生を改善!看護師を巻き込んだ歯ブラシ普及大作戦|JIBURi.com
青年海外協力隊に参加する前に想像していた以上に、順調にボランティア活動が進行していった。
突然のプロジェクト崩壊
そんなある日、突然栄養改善プロジェクトが崩壊した。
プロジェクトを中心となり運営していたパナマ人スタッフ2名が、プロジェクトから外された。
「予算不足」を理由に、突然プロジェクトの規模縮小が実行されたのだ。
プロジェクトには農業技師1名だけが残されたが、巡回指導に使っている車3台がすべて故障し、プロジェクトの活動は完全にストップしてしまった。
現在も、プロジェクトの活動は何もしておらず、休止状態である。
栄養改善プロジェクトに直接配属されている4名のJICAボランティアは、その影響をモロに受けており、活動に大きな支障をきたしている。
プロジェクト崩壊により、体調崩壊
ぼくはプロジェクトに外部から支援をする立場にあるが、それでも巡回指導がなくなるなどの影響を受けた。
今まで通り滞在調査は行っているが、プロジェクトの車で巡回に行けない分を補うために、徒歩で山奥の集落を巡回していたら、体調を崩してしまった。
支援を受けていた村人への影響
そして、何よりもプロジェクトの支援を受けていた村人に影響がある。
村人は、プロジェクトが活動を休止したことすら知らされていない。
栄養改善活動に村人を動員しておきながら、すべてが中途半端の状態で支援が打ち切りになった。
活動を振り返るきっかけになった
現在のぼくは「要請内容のプロジェクトがなくなる」という青年海外協力隊あるあるを体験できている。
プロジェクトが崩壊したことでデメリットも多く受けているが、メリットもあった。
それは、プロジェクトと自分の活動を振りかえるきっかけになったことだ。
プロジェクトの支援活動の振り返り
プロジェクトが崩壊したことで、プロジェクトが終了した後の状況を知ることができた。
もともとこのプロジェクトは2015年10月で終了することになっており、2015年6月に帰国する予定のぼくは、プロジェクト終了後の状況を知ることが出来ないはずだった。
しかし、プロジェクトが崩壊した今、山奥の集落に行くことでプロジェクトが終了したあとの状況を知ることが出来ている。
国際協力の支援活動では、「プロジェクトが終了した後も村人の力だけで活動を継続することが望ましい」と言われている。
しかし、現在の状況を見てみるとそれは全く達成できておらず、プロジェクトが終われば村人の活動も終わる状態である。
これは、国際協力失敗あるあるである。
ボランティア活動のモットー
ぼくは青年海外協力隊に派遣される前から、この国際協力失敗あるあるをどう克服するかを活動のモットーに掲げてきた。
参考:青年海外協力隊の3ヶ月目!最終目標は一つの適正技術を残す!|JIBURi.com
そして、村人の力だけで活動が継続できるような支援を意識して行ってきた。
具体的には、モノや金の支援ではなく、技術の支援それも村人の状況に適応した「適正技術」を伝えることを意識してきた。
果たして、ぼくの支援活動はプロジェクト終了後もしくはぼくが帰国後も継続するのだろうか?
ボランティア支援活動の振り返り
活動を振り返ってみると、残る技術もあるが残らない技術もあると思う。
ボランティア活動に夢中になるあまり、「自分が帰国したあとも村人だけで継続できる活動をする!」というモットーを見失っていた。
自分の活動のモットーを振り返るきっかけになったという意味では、要請内容のプロジェクトが崩壊して良かったと思う。
この機会を生かして、今一度活動計画を立て直すつもりだ。
ポジティブシンキング
「プロジェクトが崩壊して良かった」とポジティブに考えられるのは、何でもポジティブに考えるパナマが持つラテン文化に染まったおかげだと思う。
ポジティブな人間に変えてくれたパナマ人のためにも、活動を改善して恩返しがしたい。
まとめ
要請内容のプロジェクトがなくなるという、青年海外協力隊あるあるが起きた。
そして、支援活動が終わり次第村人の活動も終了するという、国際協力失敗あるあるも起きた。
そこで、ボランティア活動の活動計画をもう一度練り直したい。
青年海外協力隊としての派遣期間は、残り7か月ほどである。
ぼくが帰国しても、村人だけで継続できる適正技術を伝えたい。
そのためにさっそく、来週からまた無電化集落に泊まり込む予定である。