なぜ、いつまで経っても世界は変わらないのか?
青年海外協力隊・フィールド調査団とは
1.フィールド調査団の目的
青年海外協力隊フィールド調査団とは何か?
フィールド調査団の公式サイトを見てみよう。
世界のグローバル化、また日本企業の新興国進出の増加に伴い、各国経済やBOP市場の成長性に関する調査の重要性が増してきています。
それらをマクロに考察したレポートは多いのですが、村の様子や個人の消費行動など、ミクロ的な視点での情報はなかなか見つけることができません。
「青年海外協力隊・フィールド調査団」は、そういったミクロな情報発信において、新興国の村落部で地に足をつけて活動している青年海外協力隊が貢献できるのではないか、 という課題意識ではじまったイニシアティブです。
※「協力隊フィールド調査団」は協力隊員有志による活動であり、国際協力機構(JICA)の公式な活動ではありません。また、参加隊員たちは、本来のボランティア業務に影響のない範囲で、当調査団の活動を行っております。
引用:フィールド調査団公式サイト
一般的な青年海外協力隊員は、与えられた要請内容に沿って仕事をこなすだけであるが、フィールド調査団は問題とその解決の糸口を探し、計画を立てて活動を実行し、その結果をネット上に公開している。
一言でいえばフィールド調査団とは、青年海外協力隊によるJICA非公式の途上国調査および情報発信団体である。
では、一体誰がJICA非公式のフィールド調査団を立ち上げたのか?
2.発起人は小辻洋介さん
フィールド調査団の発起人は、世界銀行勤務の小辻洋介さんだ。
小辻さんの経歴は、<東京大学法学部➡ゴールドマン・サックス証券会社投資銀行部門➡ハーバード・ビジネススクール➡世界銀行グループ国際金融公社(IFC)農業ビジネス部門>、という超エリートである。
小辻さんの途上国に対する考え方やフィールド調査団を立ち上げた理由は、個人ブログ「Earth Color2」や東洋経済オンラインで連載していた「アフリカビジネスの最前線を走る アフリカでどぶ板営業」を読んでもらえば理解できると思う。
アフリカ最強? ドブ板日本人集団の底力 | アフリカビジネスの最前線を走る アフリカでどぶ板営業 | 東洋経済オンライン
では、フィールド調査団に入ると具体的にはどんな活動をするのか?
3.フィールド調査団の活動
フィールド調査団に入ると、以下の手順で調査・報告活動を行うことになる。
順番に見て行こう。
(1)家計調査
本格的な調査を行う前に、テーマを決めるためにまずは「家計調査」をしている。
家計調査では、活動地域の家庭や会社を訪問し収入や支出額、財産などを調べる。
その目的は、住民の暮らしや問題、良い兆しを知ることである。
(2)テーマ設定
ここで言うテーマとは、「活動地域の問題とその解決の糸口」である。
フィールド調査団は調査と情報発信を行うだけでなく、調査で見つけた問題を解決するための活動を行い、その結果を情報発信している。
またテーマに関しては、青年海外協力隊の活動に支障をきたさないように、要請内容と関係したものを設定することになっている。
(3)活動および調査
設定したテーマを基に、活動地域で活動と調査を行う。
期間はおよそ二ヶ月間。
(4)中間報告
テーマを決め解決のために活動を始めたら、途中で中間報告を作成する。
中間報告が完成したら、「メンター」と呼ばれる相談役の国際協力・途上国ビジネス関係の有識者からアドバイスを頂いたり、報告書データをfacebookグループで共有し意見交換している。
また複数の団員がいる国では、JICA事務所などで「フィールド調査団の活動報告会」を開催している。
(5)活動および再調査
頂いた意見やアドバイスを参考にして、もう一度解決策の実行と調査活動を実行する。
期間はおよそ二ヶ月間。
(6)最終報告
すべての活動と調査が終了したら「最終報告書」を作成し、メンターや協力隊員とデータを共有し、フィールド調査団の公式サイトにデータをアップする。
これがフィールド調査団のメンバーが行っている調査手順だ。
4.フィールド調査団のメンバー
「フィールド調査団って、村落開発普及員のための団体でしょ?」と勘違いする人が多いと思うが、実は参加している青年海外協力隊の職種はさまざまである。
公式サイトに載っている団員の職種と人数は、村落開発普及員12名、コミュニティ開発3名、PCインストラクター2名、野菜栽培1名、農畜産物加工1名、獣医1名、養殖1名、体育1名、小学校教諭1名、美容師1名、理学療法士1名で、計11職種・25名が記載されている。
確かに村落開発やコミュニティ開発の団員が多いが、実はそれ以外の職種もいるし、まだ公式サイトに載っていない団員もいる。
そして、2013年3月にアフリカ・セネガルでたった6名の青年海外協力隊で始まったフィールド調査団も、現在では世界10ヶ国の発展途上国で展開中である。
アフリカ:セネガル、ガーナ、ケニア、タンザニア、エチオピア
アジア:フィリピン、マレーシア、バングラデシュ
中南米:ニカラグア、パナマ
ぼくのパナマでのフィールド調査団活動
1.ぼくがフィールド調査団に参加した目的
ぼくが青年海外協力隊フィールド調査団の存在を知ったのは、2013年10月。
バングラデシュで村落開発普及員として活動している同期の協力隊が、フィールド調査団の活動をfacebookにアップしたのを見てその存在を知った。
参照:途上国のBOPビジネス!青年海外協力隊市場調査団とは?|JIBURi.com
その時はフィールド調査団という名前ではなく、「市場調査団」という名前で活動していて、その名前が示す通りビジネス的な考えが強かったと思う。
ぼくは学生時代から将来は起業したいと思っており、フェアトレードなどのソーシャルビジネスや途上国向けビジネスであるBOPビジネスにも興味があったので、「ぜひ、市場調査団に参加したい!」と思った。
パナマでの野菜栽培隊員としての活動に、ビジネス的な要素を含ませたい。
これがぼくが市場調査団(のちのフィールド調査団)に参加した理由だ。
しかし、実際にフィールド調査団に参加すると、ぼくの目的は少しずつ変わっていった。
フィールド調査団が「BOPビジネスに利用できる途上国の情報を、商社に提供すること」を目的とした集団ではなく、青年海外協力隊のためにある団体だと気づいたからだ。
2.フィールド調査団の活動
ぼくはフィールド調査団の活動の流れに沿って、2013年11月から2014年6月までのおよそ半年間活動を行った。
その期間の活動記録は、ブログに残しているので興味がある人がいれば、以下のリンクを見て欲しい。
フィールド調査団 Archives | JIBURi.com
https://jiburi.com/category/jocv/field-research/
2013年12月に作成したテーマのタイトルは、「継続的な野菜栽培のための中国人向け葉物野菜販売」だった。
その後二ヶ月間の調査を行い、2014年2月に作成した中間報告のタイトルは、「栄養改善のために野菜隊員ができること」。
そして、2014年6月に作成した最終報告のタイトルは、「栄養改善のための活動で得た成果と今後の課題」である。
2014年6月にフィールド調査団としての活動は終了した。
しかし、ぼくにはまだやり残したことがあるので、まだ活動と調査自体は続けている。
3.最終報告書のダウンロード
ここまで読んでフィールド調査団に興味が出てきて、「最終報告書を読んでみたい!」という人もいるだろう。
フィールド調査団の最終報告書は、公式サイトのデータベースから誰でもダウンロードすることができるので、ぜひダウンロードして読んで欲しい。
青年海外協力隊・フィールド調査団データベース
http://jocvmrdb.phpapps.jp/
ここまでの説明でフィールド調査団については、およそ理解してもらえただろう。
さて、ここからは半年間フィールド調査団で活動したぼくが、すべての職種の青年海外協力隊にフィールド調査団をおすすめする7つの理由を紹介する!
青年海外協力隊のすべての職種にフィールド調査団を勧める7つの理由
1.意識を変えることができる!
ぼくがフィールド調査団を勧める一番の理由は、意識を変えることができるからだ。
すべての職種の青年海外協力隊に共通していることは、派遣国の状況をより良く変えることだ。
青年海外協力隊などの国際協力機関は「世界を変えるため」に存在している。
開発途上国で行われている国際協力活動は、問題を探し、原因を分析し、その原因を解決しようとしているが、それでは世界は変わらない。
なぜならば、問題の原因はあまりにも根深く、解決することは不可能だからだ。
いつまでも問題の「原因」に目を向けていたら、世界を変えることは出来ない。
意識が変われば、行動が変わる。
行動が変われば、習慣が変わる。
習慣が変われば、人生が変わる。
引用:ヒンドゥー教の教え
このヒンドゥー教の教えはマザーテレサの言葉や、野球監督の名言としても伝わっている。
世界を変えたければ、ぼくたちは「意識」を変えなければいけない。
では具体的にには、何をしたらいいのか?
フィールド調査団で推奨しているのは、「良い例外(ブライトスポット)」に注目することだ。
問題だらけに見える発展途上国の貧困地域でも、良い例外は必ずあるはずだ。
ぼくたちボランティアはその例外を見つけだし、それを広めるべきなのだ!
そしてこのシンプルな考え方は、職種や国、宗教という枠にとらわれず、世界中のどこの貧困地域でも通用する。
特にこの考え方は、チップ・ハースとダン・ハース著の『スイッチ!「変われない」を変える方法』という本が元ネタである。
スイッチ!には、子供支援専門の国際NGO団体「セーブ・ザ・チルドレン」がベトナムの農村で行った栄養改善プロジェクトの例が説明されているので、ぜひ読んで欲しい。
参照:『スイッチ!「変われない」を変える方法』を読んで青年海外協力隊として国際協力の場面で実践したこと、したいこと。|JIBURi.com
2.無意味な活動をなくせる!
この世界はボランティアだらけだ。
アメリカの平和部隊ピースコープや国連ボランティア、NGOボランティア、独立行政法人国際協力機構JICAの青年海外協力隊JOCVやシニア青年海外協力隊SVなど、途上国で活動しているボランティアは多い。
日本で一番有名な国際ボランティア・青年海外協力隊だけで言っても、これまでに40,000人も派遣されている!
一人の青年海外協力隊にかかる費用は、1,000万円以上だと言われているから、これまでにいったいどれだけ多くの日本人の税金が使われてきたのだろう…。
それなのに、なぜ世界は変わらないのか?
それは、これまでのボランティアが行ってきた国際協力活動が、有効ではなかったからだ。
派遣中に活動がうまくいかずに悩む青年海外協力隊員も多いし、帰国後に「何の役にも立てなかった…」と言う協力隊員は多い。
確かに専門家ほどの知識も持たず、現地の住民ほどの経験も持たず、国際機関ほどの資金力もないボランティアが活動で成果を出すことは困難だ。
しかし、ぼくはボランティアにも成果を出すことは可能だと信じているし、世界を変えられると思っている。
問題の原因を解決する方法に固執するのを止めて、良い例外を普及することにすればいいのだ!
フィールド調査団に入れば、その具体的なテクニックを学べる。
メンターが知恵を出し合って作成した60ページを超える「フィールド調査団活動マニュアル」があるからだ。
3.成果を出せる!
フィールド調査団では、ビジネスの世界では当たり前に使われているマーケティングやロジカルシンキングを活動に応用する。
それを可能にしているのは、強力な味方・メンターの存在である。
各国には「メンター」と呼ばれる有識者の相談役がいて、マーケティング手法や論理的な問題解決手法を教えてくれる。
残念ながらパナマにはメンターは不在だったが、代表者の小辻さんが面倒を見てくれ、ぼくは参考図書としてフィリップ・コトラーの「コトラーのマーケティング・マネジメント」やM.E.ポーターの「競争の戦略」を読んだ。
フィールド調査団のメンバーは、そのマーケティングスキルを利用して、途上国の農村や町の市場でデータを取り、その結果を分析しブライトスポット(良い例外)を見つけ、それを利用する。
日本で商社や一般企業が行っていることを、ぼくらは発展途上国でしているのだ。
そして、活動の結果もデータを調査し、問題点や成果を分析する。
「数字」を意識した結果を出すことで、派遣国の現地人も驚くような事実を見つけることができるし、説得力が増す。
青年海外協力隊の中には数字を全く意識出来ていないせいで、自分の活動がうまくいっているのか、それとも改善できていないのかすら把握できていない隊員が多い。
そして中には活動に悩み、これ以上の活動継続を辞退し、途中帰国する隊員もいる。
それはとても残念なことだ。
4.同じ目的意識を持った隊員の発表が見れる!
青年海外協力隊には、いろんな人間がいる。
「海外で遊ぶために参加しました!」という人がいれば、「将来、国際機関で働きたくて参加した!」」という人もいる。
自分と同じ目的意識の隊員と、派遣国で出逢えるかはわからない。
フィールド調査団に参加すれば派遣国や職種は違うが、同じ目的意識を持った隊員と繋がることができるし、別の大陸や別の分野で活動する隊員の活動を知ることができ、参考にすることができる。
フィールド調査団のメンバーは、グラミン銀行で有名になったマイクロファイナンスや、所得向上のための小規模ビジネスの支援、絶対貧困の地域での栄養改善、学校でのスポーツ支援など様々な分野で活動している。
例えば、ぼくはパナマの山奥の村に住む子供たちに歯ブラシを普及するために、「生活保護の支給日にプレゼンを行う」という歯ブラシ普及計画を実行しているが、これはフィールド調査団の二人の隊員の活動を参考にして生まれた。
一つはアフリカの小学校教諭がしていた「学校の授業料を収めさせる活動」で、もう一つは村落開発普及員がしていた「村人が現金を持っているタイミングを調べる活動」である。
その二人のアイデアを組み合わせて、「歯ブラシ普及プラン」を始めた。
5.豪華な専門家の方々からアドバイスが頂ける!
フィールド調査団にはfacebookグループがあり、そこには国際協力の世界の第一線で活躍している国際機関の専門家や大学教授、JICA事務所の所長などのJICA関係者、社会人の方々が参加されている。
そこに活動報告を投稿することで、有識者の方々から意見やアドバイスが頂ける。
有識者の皆さんは日本だけでなく世界各地で活動されていて、本来ならばコンタクトを取ることさえ難しい。
このメリットだけでも、フィールド調査団に参加した意味があるだろう。
ぼくは中南米の保健衛生の専門家の方からアドバイスを頂いたおかげで、パナマ人さえ気づいていない「疥癬(かいせん)」と呼ばれる寄生虫ヒゼンダニがパナマの農村に住む子供に感染していることに気づくことができ、参加しているプロジェクトの活動として取り組むことになった。
この経験から「専門家の知識と経験はすごい!」と実感し、フィールド調査団に入っていることを喜んだ。
6.予備知識がない人に伝える練習になる!
フィールド調査団の活動報告を作ることは難しい。
なぜならば、自分が活動している村の状況や要請内容を知っている人はほとんどいないからだ。
予備知識がゼロの状態の人に向かって、地域の問題とブライトスポット、活動結果を伝えることはとても難しい作業だが、逆にそれが良い経験になると思う。
ぼくはフィールド調査団に参加したおかげで、間違いなくプレゼンテーションのテクニックが上達したと思うので、ぜひ最終報告書をダウンロードして見てもらいたい。
また、ほとんどの隊員がプレゼン資料を作成しているが、中には他の手段を使った人もいる。
例えば、セネガルで活動していた隊員は「移動する王国」というドキュメンタリー映像を撮影した。
「これぞフィールド調査団!」という活動なので、ぜひ見て欲しい!
7.帰国後の進路にも良い効果がある!
ぼくはまだ帰国していないが、フィールド調査団の経験は帰国後の進路にも良い効果があると思う。
青年海外協力隊の帰国後の進路と言えば、一番多いのは「一般企業への就職」である。
協力隊員の中には、休職していた職場への復職、大学院への進学、JICAや国連などの国際機関への就職、起業などをするOBもいるが割合は少なく、ほとんどの隊員が一般企業に就職する。
フィールド調査団を経験した隊員の強みは以下の三点で、一般企業への就職活動でも役立つだろう。
(1)ロジカルシンキングを身につけている。
(2)途上国での活動で結果を出している。
(2)予備知識がない人に伝える技術がある。
以上の7つが、ぼくが青年海外協力隊のすべての職種にフィールド調査団を勧める理由である。
まとめ
ぼくはフィールド調査団に入ったおかげで、確実に活動のレベルが向上したと実感している。
問題の原因ではなく「良い例外」に目を向けるように意識を変えることが出来たし、マーケティング思考を使って数字を使ったデータで論理的に説明することを覚え、かつそれを予備知識ゼロの人に伝えるプレゼンテーションもマスターできた。
それから、今回の記事を読んでもらえばわかってもらえたと思うが、フィールド調査団は途上国で人気のBOPビジネス向けの集団ではない。
もちろんフィールド調査団が集めたミクロな現場知はBOPビジネスの役に立つが、フィールド調査団の一番の目的は青年海外協力隊の活動の工場である。
フィールド調査団は、「世界を変えたい!」と望む青年海外協力隊のための組織なのだ。
まだフィールド調査団が展開していない国でも、活動を始めることは可能だ。
参加したいという隊員は、ぜひ公式サイトからフィールド調査団に連絡してほしい。