いちご栽培の適正な液肥のEC値(濃度)は?水耕栽培と養液土耕栽培では違うし廃液ECと量も重要

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「イチゴ栽培の適正なEC値は、どのくらいですか?」

という質問をいただくことが多い。

EC値とは電気伝導率の略で、液体に含まれるおよその肥料分を表す言葉だ。

先ほどの質問について、結論からいうとこうだ。

 

いちご栽培の最適なECとは?

・養液栽培の場合には、ある程度決まっている

・養液土耕栽培の場合には、影響する要素が多いので断定できない

 

なので、EC値だけを聞いて「ECは0.8mS/cmがいい」とか「ECが1.2mS/cmなんて高すぎる」といっている人がいたら、全然わかってない人なので注意しよう。

養液土耕栽培の場合には、EC値だけでは養液管理を判断できない。

そこで今回は、イチゴ栽培のEC値について詳しく説明してみる。

 

 

目次

イチゴ栽培に適正なEC値は?

まずは、「イチゴ栽培に適正なEC値は?」という質問の意味を説明しよう。

ECとは?電気伝導率(electrical conductivity)

そもそも、ECとは電気伝導率のこと。

英語でかくとelectrical conductivityなので、略してEC(イーシー)とよばれている。

ECの単位は、mS/cmもしくはμS/cmが使われることが多い。

mS/cmの読み方は、ミリジーメンス・パー・センチメートル。

μS/cmの読み方は、マイクロジーメンス・パー・センチメートル。

mS/cmとμS/cmの違い

マイクロは千分の一という意味なので、【1.0mS/cm=1,000μS/cm】である。

「EC0.8」といったら0.8mS/cmを指し、「EC800」といったら800μS/cmを指す。

なので、「EC0.8」も「EC800」も同じ値を指している。

EC値が大きいほど肥料濃度が高い

では、EC0.8とEC0.5の違いは何かというと、その水に含まれているイオンの数。

そのイオンが何に由来しているかというと、液肥の肥料分というわけ。

なので、EC0.5よりもEC0.8の方が肥料濃度が高い。

 

市販の液肥を水で希釈して、ECを測定する

農業の世界ではECを使って、液肥の濃度を測定する。

一般的に液肥を使った栽培では、液肥の原液を水で希釈して、ECが所定の値になったことを確認してから使用する。

世界中の大学や企業が数十年に渡って研究をした結果、「イチゴ栽培に最適な肥料バランスの液肥」が完成している。

なので窒素、リン酸、カリウム、マグネシウム、マンガンなどの配合を、生育段階によってわざわざ変える必要は基本的にはない。

あとは生産者はその液肥をメーカーから購入して、濃度の調整だけをすればよい。

 

ECをコントロールするのが養液栽培や養液土耕栽培の基本

要するに、養液栽培や養液土耕栽培では、ECをコントロールするのが重要なのだ。

ECをコントロールすることで、液肥の濃度をコントロールして、イチゴの生育をコントロールする。

例えば、株を大きくしたかったり果実を大きくしたければ、与える肥料の量を増やしてあげれば良い。

逆に、株をあまり大きくしたくなかったり果実を大きくしたくなければ、与える肥料の量を減らしてあげよう。

 

 

イチゴの養液栽培(水耕栽培)には適正なEC値がある

では、ここから本題に入る。

「イチゴ栽培の適正なEC値は?」と聞かれた場合、栽培方法が養液栽培ならばおよそ決まっている。

養液栽培や水耕栽培とは、土壌や培地を一切使わずに育てる栽培方法

そもそも、養液栽培とは土壌や培地を一切使わずに育てる栽培方法で、液肥を希釈して肥料を与える。

養液栽培と水耕栽培は、ほぼ同じものと考えてよい。

中には培地を使う養液土耕栽培も養液栽培に含める場合もあるが、この2つは分けて考えるべき。

・養液栽培:液肥だけで育てる

・養液土耕栽培:液肥と培地で育てる

 

植物の生育に重要な三要素は、

・光

・水

・肥料

なので、土はなくても構わないのだ。

 

土壌や培地がないので、水に含まれている肥料分(EC)が直接影響する

※これは家庭用の手作り水耕栽培装置で育てたシソ

養液栽培の場合には培地を使わないので、液肥の肥料濃度がそのまま根に影響する。

培地という要素がないため、シンプルに液肥だけで考えることができる。

なので、イチゴにとって最適なEC値を断定することができる。

 

イチゴの養液栽培の適正なEC値

イチゴの養液栽培の適正なEC値は、0.5〜1.0mS/cmと考えて良いだろう。

0.5〜1.0mS/cmまで幅があるのは、以下のような理由だ。

・株が小さいときは、最適な肥料濃度が低いから

・根が弱っているときは、最適な肥料濃度が低いから

・二酸化炭素を施用するときは、最適な肥料濃度が高いから

・栽植密度や液肥の量によって、植物が利用できる肥料の量が違うから

養液栽培であっても、適正なEC値には幅がある。

では、養液土耕栽培はどうだろうか?

 

 

いちごの養液土耕栽培には適正なEC値がない

私は養液土耕栽培の場合には、適正なEC値を断定することが難しいと考えている。

まずは、養液土耕栽培について説明しよう。

養液土耕栽培とは土壌や培地を使って育てる栽培方法

養液土耕栽培とは、土壌や培地を使って育てる栽培方法。

養液栽培や水耕栽培とよばれる栽培方法では、土壌や培地を使わないが養液土耕栽培では使う。

養液栽培のことを「液肥を使ったすべての栽培方法」という広い定義で考えると、養液土耕栽培も養液栽培の一種。

しかし、土壌や培地を使った場合と使わない場合では条件が大きく異なるので、私は分けている。

 

固形肥料を使うシステムもあるが、液肥を使うのが一般的

養液土耕栽培の場合には、液肥を使って肥料を与えるのが一般的だ。

しかし、中には液肥を使わずに固形肥料と水で育てるシステムもある。

そのような高設栽培システムは養液土耕栽培とは呼べないが、一括りにされる場合もある。

養液土耕栽培のメリットは、以下の通り。

・液肥を使うことで、施肥量をコントロールできる

・施肥量をコントロールできるので、生育をコントロールできる

・土壌や培地は緩衝能があるので、失敗するリスクが少ない

 

液肥をつかう場合には、市販の液肥を水で希釈してECを測定する

養液土耕栽培で液肥を使う場合には、養液栽培とほぼ同じ要領。

市販の液肥を水で希釈して、EC値を測定して使用する。

なので、養液土耕栽培でもEC値のコントロールが大切。

日本のイチゴ栽培は、もともとは土耕栽培が主流だった。

しかし、最近ではベンチを使った高設栽培が増えてきている。

高設栽培で固形肥料を使うと高設栽培のメリットが消えてしまうので、液肥を使うのが一般的だ。

なので、「イチゴ栽培の適正なEC値は何か?」と気にする人が増えてきた。

それでは、ここからは養液土耕栽培でのイチゴ栽培に、適正なEC値がない理由を説明しよう。

 

1.土壌や培地には緩衝能があり、システムによって一株あたりの培地の量が違うから

まずは、土壌や培地には緩衝能があり、さらにシステムによって一株あたりの培地の量にも違いがあるから。

培地の緩衝能

土壌や培地には、「緩衝能」とよばれる機能がある。

これは水や肥料分が多いときには吸収・保持し、水や肥料分が少ないときには放出する機能である。

この緩衝能のおかげで養液土耕栽培は養液栽培に比べて、急激な変化が起きづらい。

そのかわり、EC値0.5mS/cmの液肥を与えても培地に吸収・保持されて、培地中のEC値が0.8mS/cmになってしまうこともある。

その逆にEC値0.1mS/cmの液肥を与えても培地から肥料分が放出されて、培地中のEC値が0.5mS/cmになることもある。

なので、仮に「イチゴ栽培に適正なEC値は0.5mS/cmです!」といったとしても、実際に0.5mS/cmで継続的に液肥を流していると、培地中のEC値が0.5mS/cmよりも高くなったり低くなったりする。

 

培地の保肥性(CEC)の違い

しかもこの保肥性(通称、CEC)は培地の種類によって違う。

例えば、ピートモスやココピートは保肥性が高いし、ヤシガラや川砂は低い。

なので、同じEC値の液肥をまったく同じ量を流したとしても、培地の種類によってイチゴの根が吸収できる量に差が生まれるのだ。

違う種類の培地を使っている他のイチゴ農園とEC値の比較をする人がいるが、それは見当はずれだ。

このように養液土耕栽培の場合には、培地の種類の影響が大きいのだ。

 

一株あたりの培地量の違い

培地が影響するのは種類だけではなく、一株あたりの培地量も生育に影響する。

例えば、培地の量がイチゴ一株あたり200ml程度の極小容器もあるし、2リットルほどの大型容器もある。

同じ培地の種類であれば、培地の量が保水性や保肥性に直結する。

なので同じEC値の液肥を与えていても、培地の量が違うとイチゴが吸収できる肥料分も違う。

高設栽培のシステムごとに培地量は違うので、自分のシステムの培地量を確認してみよう。

 

株間の違い(15〜30cm)

また、一株あたりの培地量は株間の違いでも生じる。

栽培容器が発泡スチロール製の箱やプランターの場合には、一箱あたりの定植株数の違いの話。

シートを使ったハンモック式ベンチの場合には、二条千鳥植えが基本。

そして、その株と株の間隔が15〜30cmに植えることが多い。

例えば、15cmと30cmでは間隔が倍になり、一株あたりの培地量も変わってくる。

なので、同じ高設栽培システムであっても、定植する株間の違いも吸収できる肥料分に影響する。

まったく同じシステムと培地を使っていて、そこにまったく同じEC値の液肥を与えたとしても、株間が違っていれば生育には差が生じるのだ。

 

いちご栽培のいろんな方法については、こちらの記事で解説している。

ぜひ読んでみてほしい。

 

 

2.EC値はあくまで肥料の濃度なので、液肥の量によって施肥量は変わるから

2番目の理由は、EC値はあくまでも肥料の濃度であって、肥料の量ではないから。

これを勘違いしている農家が多すぎる。

お酒に例えてみる

わかりやすくするために、お酒に例えてみる。

「アルコール度数5%のビールとアルコール度数30度の焼酎、どちらの方が酔うか?」

この質問に「焼酎!」と答える人は間違っている。

なぜかというと、量がわからないからだ。

もし同じ量のビールと焼酎ならば、焼酎の方が酔うだろう。

しかし、量が違えば結果はわからない。

それと同じように、EC値も肥料の濃度なので、液肥の量がわからなければ施肥量はわからない。

 

「高濃度だけど微量、低濃度だけど多量」は比較できない

例えば、この2つの液肥を比べてみよう。

・EC値 0.3mS/cm

・EC値 0.9mS/cm

これだけで「EC値0.9の方が施肥量が多い」と考えた人は間違い。

なぜかというと、EC0.3を大量に与えたり、EC0.9を少量だけ与えることもあるからだ。

「EC0.3は低すぎる!」とか「EC0.9は高すぎる!」という人がいるけど、量を把握してからにしよう。

 

ECだけ尋ねる人、ECだけ測定している人はわかっていない

イチゴ栽培について指導している人の中には、生産者にEC値だけ尋ねて、それだけでアドバイスしている人がいる。

それでは正しい施肥量がわからないので、そういう人には気をつけよう。

それからイチゴを生産している農家の中には、与えている液肥のEC値だけ測定して満足している人がいるが、それだけでは不十分。

 

 

3.液肥の量が同じであっても、給液回数や廃液率によって植物が受け取る肥料分は変わるから

さらに細かい話だけど、液肥の量が同じであっても給液回数や廃液率によって、植物が受け取る肥料分は変わる。

液肥の量が同じでも、給液回数が一日1回の場合と一日10回の場合

例えば、イチゴの一日の灌水量はおよそ200mlが基本といわれている。

実際には50mlから600mlくらいまで幅があるけど。

もしその200mlを1回で与える場合と、10回に分けて与えた場合にはその効果は異なる。

なぜかというと、植物の根は根域を水が流れたときに、肥料を効率よく吸収できるから。

養液土耕栽培では「少量多灌水」が良いといわれる理由はコレ。

 

廃液率が5%の場合と50%の場合

もう少し栽培に即した話をすると、廃液率を考えるのが重要。

廃液率とは、【培地から溢れた液体の重さ÷培地に灌水した液体の重さ×100】で算出できる。

例えば、1,000リットルを灌水して200リットルが廃液として出てきた場合は、廃液率が20%。

通常、冬期の促成栽培では廃液率は20%程度、夏期の夏秋栽培では30%程度にするのが良いといわれている。

この廃液率が5%の場合と50%の場合には、溢れた液肥の量が違う。

廃液率が高すぎる場合には、少量多灌水を意識したほうが良い。

 

週に1回しか灌水しない農家、一日に10回灌水する農家

実はイチゴ農家の水やりは、農家ごとに差が大きい。

例えば、土耕栽培では週に1回しか水やりをしない農家もいる。

逆に、一日に10回以上も水やりをする農家もいる。

このように水やりについては生産者ごとに大きく違うので、EC値だけでなく灌水方法についても注意しないといけない。

もし他の生産者と比較をする場合には、EC値だけでなく灌水方法も同じにしないと正確には比較できないからだ。

 

 

【結論】養液土耕栽培のイチゴ栽培では適正なEC値は、一言では断定できない

※この写真はEC値を測定するECメーター

ここまで説明した理由で、養液土耕栽培のイチゴ栽培では適正なEC値は、一言では断定できない。

理由1.土壌や培地には緩衝能があり、システムによって一株あたりの培地の量が違うから

理由2.EC値はあくまで肥料の濃度なので、液肥の量によって施肥量は変わるから

理由3.液肥の量が同じであっても、給液回数や廃液率によって植物が受け取る肥料分は変わるから

 

イチゴが吸収する肥料分に影響する要因は、これだけある。

 

影響する要因

・液肥のEC値

・液肥の量

・液肥の灌水回数

・培地の種類

・一株あたりの培地の量

 

なので、「イチゴ栽培の適正なEC値は?」と聞かれた場合には、これだけの要素を教えてもらわないと正しいアドバイスはできない。

もちろん、品種や作型、経営計画によっても最適なEC値は異なるので、実際にはより複雑になる。

私が知っている範囲だと、イチゴ栽培に使用されるEC値は0.1〜2.0mS/cmくらいの範囲がある。

 

いちごの高設栽培については、こちらの記事で解説している。

栽培システムにも興味がある人は、ぜひ読んでみてほしい。

 

 

いちごの養液土耕栽培の最適ECまとめ

今回は、イチゴ栽培の適正なEC値について解説した。

養液土耕栽培のEC値について勘違いしている人が多いので、ぜひ参考にしてもらいたい。

 

YouTubeでミガキイチゴで有名なGRAさんを紹介

高級ブランド苺の「ミガキイチゴ」で有名な宮城県の株式会社GRAさんの農園を取材しました。

(1)ミガキイチゴの育て方

(2)環境制御の設備

(3)UV-Bライトによるうどんこ病抑制方法

興味がある人は、こちらの動画を見てください。

GRAでミガキイチゴの栽培方法と最新設備を見学【UV-Bでうどん粉病対策】

株式会社イチゴテックのホームページ

宮崎が経営する株式会社イチゴテックは、イチゴビジネスに特化した農業コンサルティング企業です。

こちらからウェブサイトへアクセスできます。

 

 

いちご栽培のコンサルティング

私は、日本と海外でイチゴ栽培のコンサルティングをしています。

こちらのページで詳しく説明しているので、ぜひ読んでみてください。

 

イチゴ栽培の参考図書

ここで説明したことは私が大学院で勉強したことをベースに、農業コンサルタントとしての仕事の経験を含めて書いています。

イチゴ栽培の養液管理について勉強したい方には、こちらの3冊がおすすめです。

養液栽培のすべて

 

最新農業技術 野菜

 

日本のいちご

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