青年海外協力隊の入浴事情|風呂と水シャワー
日本とパナマには、ある決定的な違いがある。
それは風呂である。
日本では浴槽にお湯を溜めて入浴するが、パナマでは水シャワーを浴びるだけだ。
しかも、日本人は夜に風呂に入るのが一般的だが、パナマ人は家から出かける前と家に帰って来た時の二回シャワーを浴びる。
暑い日の水シャワーはとても気持ちがよいが、雨が降って気温が下がった後の水シャワーはとても寒く不快だ。
特に農作業をして肉体的に疲れた日は、「日本式の温かい湯船に浸かりたい!」と日本の風呂を懐かしんでいる。
JICA駒ヶ根訓練所で青年海外協力隊候補生が入る風呂
風呂と言えば、駒ケ根訓練所の風呂はぬるま湯だった。
浴槽は20人以上が一度に入れるほど広くてとても気に入っていたが、お湯の温度は僕にはぬるすぎて好きではなかった。
ぬるま湯にいつまでも浸かっていたくはない。
青年海外協力隊の70日間の派遣前訓練
駒ケ根訓練所では70日間の派遣前訓練を受けた。
訓練という名前だが、訓練の中間には中間試験、最後には最終試験があり、実質的には選考も兼ねている。
基本的には、朝6時半からラジオ体操とランニング、午前中は語学の授業、午後は各種講義を受けていた。
月曜日から土曜日まで授業と講義を受け、日曜日だけは休日だった。
派遣前訓練の感想は訓練生それぞれ異なる
僕が数人の隊員OBに訓練生活について感想を聞くと、「超辛かった!」という人と「超楽しかった!」という人のどちらかに分かれていた。
「僕はどんな訓練所生活を送るのだろう?」とドキドキしながら入所した。
青年海外協力隊の派遣前訓練の体験談と感想
青年海外協力隊の派遣前訓練の体験談と感想をまとめる。
派遣前訓練|入所から中間試験までの前半30日間
入所から中間試験までの30日間は、非常に充実した日々だった。
初めて習うスペイン語に悪戦苦闘し、出会った訓練生達と少しづつ仲良くなり、週末には駒ケ根の飲み屋にお酒を飲みに行った。
ハードなスケジュールのため途中体調を崩すこともあったが、中間試験では無事に合格点以上を取ることが出来た。
ただし、この中間試験を境にして、僕の訓練生活は一気につまらなくなった。
派遣前訓練|中間試験後の後半30日間
それは、中間試験があまりにも簡単すぎてショックだったからだ。
「派遣前訓練は選考を兼ねている」と訓練所スタッフは強調していた。
それにしては、いくらなんでも試験が簡単すぎると思った。
実は、日々の講義でもこの不満を感じていた。
例えば、講義で教えられる「ファシリテーション手法」や「計画手法」のレベルが低すぎる。
ただ名称を紹介して、基礎の基礎をちょこっと教えてもらうだけだ。
全く意味がないと思った。
これはファシリテーションやSWOT分析という言葉も聞いたことがない訓練生に合わせて実施されたからだろう。
僕は訓練生ならそれくらい知っていて当然だと思っていた。
僕が持っていた協力隊のイメージと実際の協力隊が違うことに、少しずつ気が付き始めていた。
そんな時に、合格率ほぼ100%の中間試験が実施された。
青年海外協力隊の派遣前訓練を辞退しようか悩む
中間試験を終えて一息つきながら、僕は訓練所を辞めることを真剣に考え始めた。
毎晩ぬるま湯の風呂に浸かりながら、ぬるま湯のような訓練生活にいつまでも浸かっていたくはないと考えた。
僕のイメージしていた協力隊はもっと厳しく、まるで熱湯のような場所だと思っていた。
しかし現実はぬるま湯にしか思えなかった。
ただし、訓練所を辞めることは協力隊派遣を辞退することを意味し、代わりにすぐにやりたいことも思い浮かばなかった。
新卒という肩書を失ったため、まずはハローワークに通わないといけないなぁと考えていた。
JICA駒ヶ根訓練所の図書館に通う
どんな職業に付くか考えるために、訓練所の図書館に通うようになった。
ここには、帰国後の協力隊員向けに就職情報の本が並んでいる。
就職情報の本を探している内に、歴代の訓練生が残した文集やアルバムが保管されている棚を見つけた。
1990年から2010年くらいまでの先輩訓練生が残したメッセージや訓練中の写真があり、興味をそそられた僕はしばらくパラパラめくって眺めていた。
すると、ドキッとする一文を見つけた。
それは「あなたにとって協力隊とは?」という問いに訓練生が答えるというページにあった。
問:あなたにとって協力隊とは?
熱湯のように見える、ぬるま湯。
青年海外協力隊は熱湯のように見える、ぬるま湯
僕と同じ気持ちを抱いている訓練生が過去にもいた。
彼は今から10年以上前に訓練を受けた隊員だった。
もちろん会ったこともないし、どんな人かも全く知らないが勝手に親近感を感じた。
勝手に勇気をもらった。
彼も協力隊をぬるま湯と感じながらも訓練をやり遂げたのなら、僕もやり遂げようと決意した。
ぬるま湯のようなJICAボランティア訓練を熱湯に変える方法
しかし、このまま訓練所のカリキュラムに沿って訓練期間を走り切っただけでは、自分は成長出来ない。
そこで、勝手にハードルを立てた。
それは、「訓練期間中に30冊の本を読む」という目標だ。
読書が趣味のため、元から訓練所に本を持参し読んでいたが、もっと自分で学びたいことを学ぶことにした。
有り難いことに訓練所の図書館には、僕が学びたい国際協力や地域活性化に関する本がたくさんある。
その日以降、毎日図書館に通い面白そうな本を借り、寝る間を惜しんで本を読んだ。
結局、目標の30冊には1冊及ばずながらも、退所までに29冊の本を読むことができ、ほぼ目標は達成できた。
訓練中の息抜きと悩み相談
しかし本ばかり読んでいた訳ではない。
訓練の終盤には、訓練生とお酒を飲みに駒ケ根の街に繰り出した。
久しぶりのお酒で酔いが回った僕は、「実は訓練所を辞めようと思っていた」と打ち明けた。
青年海外協力隊に参加すべきなのか?と悩む
正直その時もまだ「本当に協力隊に行くべきなのか?」と悩んでいた。
自分で本を読むというハードルを立てることで、訓練期間は充実した時間になった。
しかし、協力隊での2年間も充実した時間にすることが果たして可能なのか。
協力隊に行かずに日本で2年間働いた方が、よっぽど自分を成長させることが出来るのではないか。
そんなことを話していると、その場に居合わせた水泳が得意な小説家隊員の言葉が、僕の心臓に綺麗に飛び込んできた。
悩んでいることも含め、君は正しい。
この時の感覚は、水中でケノビをしてスーッと体が水面に上がって来た時の感覚に近い。
急に肩の荷が無くなり、体が軽くなった。
訓練所を退所する直前になってまで派遣を悩んでいるのは、明らかに良くないことだ。
派遣を取りやめれば、JICAにも受入国にも迷惑がかかる。
そんな僕に「君は正しい」と直球の肯定語を送ってくれた。
僕はこの言葉に支えられたおかげで、無事に訓練所を卒業出来た。
派遣前訓練を振り返っての感想
ぬるま湯のように感じていた訓練所生活を思い返してみると、実は先輩訓練生が残した言葉と同期訓練生の言葉に支えられていたと気づいた。
訓練をぬるま湯と感じていたのは、僕が自分でジブンを追い込められない「ぬるい男」だったからだろう。
ぬるい男のままでは、2年間の協力隊生活もぬるま湯になってしまうだろう。
ぬるま湯にいつまでも浸かっていたくはない。
ぬるま湯を熱湯に変えられるような、熱い男に僕はなりたい。
そのためには、訓練所で本を読んだように、期限を設けて自分でジブンにハードルを立てていく必要があるだろう。
パナマに来てから、訓練所生活と同じくおよそ70日が経過した。
そろそろ、走り始めたい。
おしまい。