青年海外協力隊が途上国で成果を出すために必要な3つのスキル
青年海外協力隊として中米パナマ共和国で2年間活動した。
ただボランティアとして活動するだけならば誰にでもできるが、途上国で成果を出そうと思ったら一気に難しくなる。
途上国は日本とは比べ物にならないほど問題が多く、計画通りには予定が進まないからだ。
荒波のような途上国で成果を出すためにはどうするべきなのか?
2年間の活動を振り返りながら考えてみると、以下の3つの力が必要になるという結論に達した。
1.ビジョンを持つ力
2.小さく始める力
3.方向転換する力
よくよく思い返してみると、この3つの力は起業家向けの本「リーンスタートアップ」に書かれていた内容と酷似していると気がついた。
青年海外協力隊が途上国で成果を出すためには、「起業力」が必要になるのだ。
そこで今回は、ぼくが考える青年海外協力隊が途上国で成果を出すために必要な3つのスキルを紹介しよう。
1.ビジョンを持つ力
まず最初に必要な力は、ビジョンを持つ力だ。
ボランティアが「ビジョン」を持っていなければ、ボランティア活動の推進力も方向性もないからだ。
1.途上国に派遣される前のビジョン
ボランティアは途上国に派遣される前から、自分がすべきボランティア活動についてビジョンを持つべきだ。
周りのボランティアを見ていて思うのは、ボランティアが途上国で成果が出せるかどうかは、派遣される前にすでに決まっていると思う。
日本にいるときに途上国で成し遂げたいビジョンを持っていなければ、途上国の荒波にもまれてしまう。
ビジョンとは「見てみたい未来の姿」のことで、具体的な活動内容ではない。
例えば、ぼくが途上国に来る前に持っていたビジョンは、「10年後まで残る1つの技術を1つの村に伝えること」だった。
詳しくは過去記事を読んで欲しい。
参考:1つの村に1つの技術を10年後まで !青年海外協力隊の最終目標はたった1つの適正技術を残すこと
参考:JICAボランティア派遣前訓練の自主講座!野菜栽培隊員のぼくが青年海外協力隊サッカー隊員になった理由
しかし、「青年海外協力隊になることが子供の頃からの夢でした!」というタイプの隊員は、日本へ帰国する時に「実は途上国に着いた瞬間に夢が叶ってしまったので、残りの2年間なにをすればいいのかわからなかった……」と言うことが多い。
青年海外協力隊になることではなく、「青年海外協力隊として途上国に派遣されてから、どんな未来を創りたいのか?」を派遣される前に考えるべきだし、もしビジョンがないならば青年海外協力隊になるのはやめるべきだと思う。
2.途上国を知ったうえでビジョンを見つめなおす
途上国に派遣されボランティア活動を始めたら、途上国や活動地域の現状を理解したうえで、ビジョンを見つめなおそう。
日本で抱いていたイメージと途上国の現状が違っている場合も多く、青年海外協力隊の多くは悩むはずだ。
ぼくは貧困地域の村人は不幸な生活を送っていると思い込んでいたが、幸せそうな姿を見て自分のビジョンを見つめなおした。
参考:ボクのおとうさんは、ボランティアというやつに殺されました。
参考:続編|おとうさんを殺されたボクにとっての国際協力とは?
途上国のリアルな姿を理解したうえで「目指すべき未来の姿」を想像し、そのビジョンを目指して必要なボランティア活動の計画を立てよう。
2.小さく始める力
明確なビジョンを持てたら、次に必要なスキルは小さく始める力だ。
ひとつの活動にすべての資源と時間を費やして壮大な計画を立てるのではなく、複数の活動を小さく、早く始めてみよう。
1.リスク分散のために小さく、早く、複数の活動を始める
小さく、早く、複数の活動を始めることは、リスク分散に効果的だ。
なぜならば、途上国は日本では考えられないような障害やトラブルが発生するからだ。
例えば、ぼくの要請内容の栄養改善プロジェクトは、計画の一年以上前に突然崩壊した。
もしぼくが要請内容の活動だけしかしていなかったら、今頃途方に暮れていたはずだ。
しかし、ぼくは要請内容のプロジェクトを支援する活動の他にも、改良カマドを教えたり、看護師さんと衛生指導をしたり、日本文化紹介をしたり、お料理教室を開催したり、野菜ビジネスを支援したり、小さな複数の分野のボランティア活動を行っていたので、ひとつのプロジェクトがなくなっても問題はなかった。
参考:青年海外協力隊の要請プロジェクトが崩壊したおかげで、忘れかけていたボランティア活動のモットーを思い出せた。
参考:青年海外協力隊になり一年!ついに野菜を育てない野菜栽培隊員になれた。
途上国では政治的な問題やインフラの問題、人間関係など、日本以上に外的な障害が発生するので、リスク分散のために小さく、早く、複数の活動を行うことをおすすめする。
2.行動することで実際の生データが取れる
小さく、早く、複数の活動を行うことには、実際の生データが取れるというメリットがある。
大きな計画を時間をかけて作っているだけでは、途上国の現状や本当に村人が必要としていることを理解することはできないが、小さなボランティア活動を行えば、村人と関わることができ生のデータを得ることができる。
例えば、ぼくは一年目にフィールド調査団の調査活動を行ったことで、村人の収入や生活コスト、実際に食べている食事を知ることができた。
フィールド調査団の調査で知れたデータがすべての活動の原点になっている。
参考:スライドシェアで青年海外協力隊・フィールド調査団の報告書など5つのスライドが読めます!
参考:途上国の問題をビジネス思考で解決!JICAボランティアのすべての職種に青年海外協力隊フィールド調査団を勧める7つの理由
壮大な計画を時間をかけて作るよりも、小さく複数の分野の活動を行うことで、途上国が抱えている問題や本当に必要な支援を知ることができる。
3.方向転換する力
最後に必要な力は、方向転換する力だ。
たったひとりのボランティアの力は微々たるものなので、変化を起こそうと思ったら力をひとつの活動に集中させる必要がある。
そして、データを分析しながら、問題を回避するために活動の方向転換を繰り返す必要がある。
1.「必要とされていて、実行できる支援」へ資源と時間を集中させる
ボランティアが途上国に変化を起こそうと思ったら、いろんな分野の活動を少しずつ行っていてはダメだ。
たった一回教えただけではボランティアが日本へ帰国すれば、一瞬でその変化はもとに戻ってしまうだろう。
そのため、ボランティアが日本へ帰国しても継続できるような変化を起こそうと思ったら、ボランティアが持つ資源や時間をひとつの活動へ集中すべきである。
例えば、ぼくは50か所の集落に巡回に行き、主に5か所の学校菜園で活動し、特に2か所の集落に滞在しながら農村調査し、最終的にはひとつの集落を集中的に支援した。
いきなりたったひとつの地域に絞るのではなく、まずは広い活動範囲を持ち、少しずつ活動地域を絞っていけばいい。
参考:無電化集落に60日間滞在!今年のボランティア活動の振り返りと2015年の活動計画
また、やめるべき活動と選ぶべき活動の違いは、「必要とされていて、実行できる支援」かどうかだ。
途上国の人から必要とされていても、ボランティアに実行できない支援をしても意味がないし、ボランティアが得意な分野でも途上国が必要としていなければそれはただの自己満足だ。
ぼくのとっての「必要とされていて、実行できる支援」は、野菜の育て方と食べ方と売り方を教えることだった。
そのため、一年目に日本文化紹介や衛生指導、改良カマド作りに費やしていた時間を、二年目は農業指導だけへ集中させた。
2.データを分析しながら、方向転換を繰り返そう
ひとつの支援活動に的を絞ってからは、対象者の意見や変化、問題などのデータを分析しながら、活動の方向転換を繰り返そう。
長期的な計画に従ってその作業をするだけでは、絶対にうまくいかない!
常に対象者を観察し、発生するであろう障害を回避しながら、短いスパンで計画を書き直して活動するべきだ。
例えば、ぼくはブログを毎日書いてボランティア活動を振り返り、三ヶ月に一度の頻度で農業活動レポートという個人的な農業に関する活動をまとめた報告書を作っていた。
「情報発信をたくさんしているのに、ボランティア活動でも成果を出していてすごい」と言われたが、実際にはその逆で「ブログや個人的な報告書を書くことでデータ分析と方向転換転換をしていたから、ボランティア活動でも成果を出せた」のだ。
JICAの報告書はほとんど意味がないような内容で、しかも作成する頻度は半年に一回だけなので、JICA報告書以外にも自分の活動を振り返る機会を作ることをお薦めする。
参考:海外ボランティアにブログをおすすめする理由「1.途上国のため 2.日本のため 3.JICAボランティアのため」
参考:青年海外協力隊のぼくがブログや活動報告レポートを書くのは、学生時代に記者として取材の経験があるから。
まとめ
青年海外協力隊が途上国で成果を出すために必要な3つの力をまとめた。
1.ビジョンを持つ力
2.小さく始める力
3.方向転換する力
よくよく思い返してみると、この3つの力は起業家向けの本「リーンスタートアップ」に書かれていた内容と酷似していると気がついた。
青年海外協力隊には、意外と起業家が向いているのかもしれない。
これから青年海外協力隊になる人には、参考してもらいたい。