Photo by Masakazu Suwa
はじめまして、青年海外協力隊・環境教育隊員として現在エジプトに派遣されている「しゅわわ」と申します。
配属先はエジプトの首都カイロにある環境省で、主に子ども達に環境についての理解を深める事を目的としたワークショップの企画運営をしています。
「えっ、誰? 環境教育って何? エジプトってピラミッドの国?」と混乱している方も多いと思うので、まずは自己紹介とエジプトでの生活と活動の紹介をします。
参考:【募集】ブログ「JIBURi.com」で青年海外協力隊からの寄稿記事を受け付けます。
しゅわわというあだ名の由来
僕のこと変な名前だなって思った方多いと思いますが、これには前職が関係しています。
僕は大阪で保育士をしていました。
と言ってもフリーランスの保育士で、週2くらいで幼稚園に勤務し、後の日は自宅で『創作活動のできるお預かり保育』というものをしていました。
金銭的に不安定だったのでアルバイトもやってましたけど。
子どもと関わるうえで間に壁を作りたくなくて、変な名前を勝手に名乗るようになったのは4年ほど前です。
最初は子ども達にも「変な名前ー、なんだそりゃー!?」と言われましたが、先生と呼ばれない意味はとても大きく、すぐに打ち解ける事ができました。
だんだん子ども達だけでなく同僚も親御さんも呼んでくれるようになって、気がついた時にはみんなと友達になっていました。
ちなみに派遣前訓練中もしゅわわと名乗っていたんですけど、アラビア語の先生に「エジプト人はそうゆうの保守的だからアカン」と言われ、『ワリード』というアラビックネームを名づけられました。
郷に入っては郷に従うたちなんで、現地のニーズに合わせるのは当然です。
実は僕以外のエジプト隊員もアラビックネームをもらっていて、先生発案なんですけど、自己紹介するだけでエジプト人はとても喜んでくれます。
だって日本でも外国人が「ワタシ、ダイスケデス」とか言ったら、ぐぐっと距離縮まりますよね?
日本でもエジプトでも、誰かと協働で何かをするには、こういった工夫が大切だと感じます。
目線を同じにするというか。
教育って、どうしても一方通行になりやすい。
『教える→教えられる』の関係じゃなくて、ライブっぽい一体感を大切に、共に作り上げる環境教育を目指しています。
森の幼稚園
環境教育を学び始めたきっかけですが、日本で勤務していた幼稚園が『さつきやま森のようちえん』という所で、そこで僕は創作の講師をやっていました。
美術大学を卒業していて、保育士をやる前からも創作活動をずっと続けていたので。
森のようちえんは文字通り森の中で保育をする幼稚園で、園舎はなく、雨の日だってカッパを着て五月山に登ります。
雨の日の山とか、すごい魅力的なんですよ。
大人はしんどいのが先に来ますが、子ども達にとっては大冒険です。
普段と違う色で緑が輝くだけで、興味津々。
季節や天候によって自然の見え方は異なりますからね。
そしてその日の状況にぴったりな創作のワークショップを子ども達と楽しむのが僕の仕事でした。
30代後半なんで山の上まで創作の道具担いで行くのが相当堪えましたけど。
この幼稚園では『今やりたいことがいちばんめ』を合言葉に、子ども達が自分の頭で考えて行動することを大切にしています。
そんな中、臨機応変に自然の中で創作をする為には自分の引き出しを増やす必要があるなと考えて、『自然観察インストラクター養成講座』を受けることになります。
『大阪自然環境保全協会』という所が主催していて、そこでは、身近な場所に潜む自然を見つけ、多くの人とわかちあう楽しさを学びました。
その後、同協会で観察会の企画運営のボランティアスタッフをし、今に至ります。
環境教育で協力隊に応募するまでの流れはこんな感じです。
青年海外協力隊を受験した理由
実は3年前くらいにも一度協力隊の説明会には参加した事があります。
結局応募するまでには至らなかったんですけど。
応募するための書類作りが、まぁまぁハードル高いんです。
小論文とまではいかないけれど、けっこーな文章量で志望動機を書くことになります。
その時の設問に自問自答してみたら、「こんな自分に何ができるだろう?」と考えてしまって……
口から出まかせを書く気持ちになれなくて、まだそのタイミングじゃないなって思いました。
でもそれから3年経って、なんかふとした時に、「あ! 今の自分なら絶対におもしろい活動ができる!」って感じた瞬間があって。
それはやはり子ども達との関わりが理由だと思います。
子ども達はほんとに僕のことを毎日褒めてくれました。
「しゅわわのアイディアおもしろい! いっしょにいると楽しい!」その言葉をずっと浴び続けて、どうやら僕は魔法にかかったみたいです。
自分はエジプトに求められた上でここにいるっていう感覚が、今でもとても強くあります。
エジプトは安全なのか?
メディアによるエジプトについてのイメージばかりが日本では先行しがちなんで、ここらで生のエジプト情報をお伝えします。
僕はJICAからの合格通知で『派遣国エジプト』って文字を見た瞬間、「うわー、まいったな」って思ったんです。
ちょうどその頃、中東についての暗いニュースが世間を騒がせていたので。何度もJICAに問い合わせました。
「まちがいじゃないですか??」みたいな(笑)
訓練期間中も、カイロ在住の先輩隊員にスカイプで「ほんとにエジプトは安全なんですか?」って聞いてみたり。
不安はずっと消えませんでした。
でも実際にエジプトへ来てみるとどっこい。
みんなフレンドリーで、決して油断してはならないけど安全な国だなって実感しています。
もちろん地域によっては外務省が立ち入りを禁止してたりもするんですが。
だって僕の友達のアフリカ隊員はけっこー危ない目に合ってるんです。
まだ赴任して2ヶ月経たないくらいなのに。
他の国の隊員がホームステイだの窓に鉄格子が必須だのって話している中、エジプト隊はひとり暮らしです。
カギは玄関のドア1個だけだし。
そのへんからして、日本にいて感じるエジプトの状況とは大きく違います。
しかし数年前のアラブの春の時だけは、デモが盛んに行われていたという事もあり、全隊員が日本に緊急退避した経緯もあります。
今でもいつ何があっても対応できるように、数日分の食料は必ず備蓄するようにとの規定があります。
Photo by Masakazu Suwa
意外なエジプトの水事情
それ以外に感じるエジプトの感想としては、カイロにもけっこー雨が降る!とか。
特に今年は異常気象だとも聞きましたが。傘を携行するほどではないにせよ、一面水たまりで通勤の時に困る事もあります。
そしてその話に繋がることとして、みんなあまり水を大切にしません。
これは意外でした。
砂漠ばかりなイメージだったので。
道に水を撒いている人をよく見かけて、それはまぁよくある話ですけど、人がいなくても出しっぱなしとか。
蛇口がきちんと閉まらなくて常にタラタラ流れてるとか。
でも、ナイル川下流の農業地域では、実際にきれいな水が足りなくて困っている現状があり、JICAが水質浄化プロジェクトの支援をしています。
環境教育隊員としては、ハード面の支援以前に、市民の認識のズレに対して何かしらのアプローチが必要なんじゃないかなと考えています。
その他だと、エジプトには世界でも有数のダイビングスポットがあるってご存知ですか?
エジプトの東側は紅海に面しています。
3、4日くらい休みが取れたらそういった所でリフレッシュするのもいいかもしれません。
たまーにですけどね。
僕の同期隊員はこの紅海沿いで幼児教育をしています。
それなのに僕は排気ガスまみれのカイロです。
「羨ましいんじゃないの?」って感じますか?
そんな事は全くないです!
ほんとですってば。
僕は、何と言ってもエジプトの魅力は街にあると感じてます。
そしてエジプト人。
とても愛すべき存在です。
慢性渋滞のカイロの喧騒の中、バスや電車でエジプト人と触れ合うと、それだけで生きてる実感が湧きます。
なんなんだろこれ。
日本では味わえない感覚。
みんな、きちんと人間なんです。
日本人全員を悪く言うつもりはないけど、地下鉄とかで無表情でみんなスマホいじってたりするの怖いって感じた事ありませんか?
僕だけなのかな。
なぜか人は多くいても温度を感じなくて寂しいんです、日本。
そりゃ僕だって親友がいるし、仲良くなるとみんな温かいですけどね。
カイロは、他人同士の距離がとても近い。
だからある意味において、そうゆう距離感が疲れちゃう人には厳しい環境かもしれません。
例えばバスに乗るとするじゃないですか。
座ってると後ろの人に肩を叩かれるんです。
もうめっちゃびっくりして、「え? 何??」みたいに振り向くと、小銭を渡されます。
キョトンとしてると、運転手に渡してくれって。
カイロではこうやってバケツリレーならぬ小銭リレーをしてバスの支払いをするのが一般的です。
なんかそれだけでも、みんな一緒に遠足でもしてるんじゃないかって錯覚してしまうような一体感を覚えました。
降りる場所がかわからなくても心配いりませんよ。
尋ねれば必ず誰かが教えてくれます。
聞かれた人が知らなくても、「誰か知っている奴はいないのか??」って呼びかけてくれます。
こうゆうお節介な人たち、魅力的じゃないですか?
喧嘩の仲裁をしているエジプト人もよく見かけます。
ほんとに筋金入りのお節介なんで。
見て見ぬフリなんかしません。
「どうした、どうした? いったい何があったって言うんだ?」って感じで、すぐに野次馬が集まります。
そして、両者の意見を聞いたうえで「マーレ―シュ」と言ってその場は収まります。
魔法の言葉マーレーシュ
「マーレ―シュ」とは、直訳すると「気にするな」っていう意味で、これはなかなか便利な言葉なんです。
例えば通りに水を撒いているおじさんがいたとします。
僕が通りがかって、うっかりビシャッと水をかけられました。
おじさんは僕に、「マーレ―シュ」と言います。
駅で切符を買おうとしてる時もそうです。
列に割り込んできたエジプト青年に僕がムッとしたとします。
青年は僕に「マーレ―シュ」と言います。
「気にするなよ、じゃねぇだろ!」ってツッコミを入れたくもなりますけど、なんか許せちゃいます(笑)
ただし、いちおう謝罪の時に使う言葉ではあるらしいです。
なぜかというと、ママが子どもに「ほら、『マーレ―シュ』って言いなさい」って教育してるのを目撃したことがあるからです。
「ごめんなさい、言えるかな?」みたいなノリで。
強引に解釈すると、「あなたの素晴らしい一日が、こんな事で暗くなるのはもったいない。そのマイナスは私が引き受けます。だからあなたは気にする必要はないんですよ」みたいな意味かな。
言葉は文化や国民性を作ります。
エジプト人のおおらかな性格はそんなとこにも表れるのでしょう。
Photo by Masakazu Suwa
環境教育隊員はどんな活動をするの?
ところで、「エジプトでの環境教育ってどんな事やるの?」ってよく聞かれます。
エジプトは、ヨーロッパから近いという事もあり、古くからの伝統文化と近代化の間で現在は大量消費社会と化しています。
首都人口の急激な増加も伴い、街に散乱しているゴミや慢性化した渋滞による排気ガスなどが問題です。
そういった問題は同時に自然生態系にも影響を及ぼし、深刻な砂漠化でナイル川流域以外には人が住めない現状です。
僕はそういった環境問題について広く人々に伝え、どんな実践をすれば改善に向かうのかを個人個人に考えてもらうお手伝いをしています。
ワークショップの企画運営が主な仕事ですが、アプローチ方法について限定されている訳ではなく、どうすれば隅々まで多くの人に周知してもらえるかを模索しています。
エジプトの国土面積は広く、なんと日本の2.6倍です!
環境省の同僚と地方出張しながらワークショップして巡っています。
実は今僕が企画実施している環境教育について学ぶ工作ワークショップで、紙の特性を説明する時に、「アラビア語には『切る』と『折る』しか紙についての動詞がない」って現地の語学講師に言われました。
破る、ちぎる、畳む、丸めるなど、日本語はほんとに表現が多様です。
エジプトの場合は、はさみで切る、手で切る、細かく切る、折って重ねる、丸く折るとか。
そんな言い回しになります。
ちなみにオノマトペ的な擬音などもほぼ存在しません。
日本人の繊細な国民性も、そんな部分から窺えます。
そりゃぁエジプトで鬱になる日本人が多いのも頷けるわ、みたいな。
それに日本に住むエジプト人も生きづらいって、二本松訓練所でお世話になった語学訓練の先生が言ってました。
でも僕にとってはエジプトがめちゃめちゃ生きやすくて仕方ありません。
まとめ
というわけで、エジプトの生活を満喫しています。
これからJIBURi.comでエジプトの生活や環境教育隊員の活動について、記事を寄稿する予定です。
以上、平成27年度2次隊、環境教育エジプト派遣諏訪正和でした。
しゅわわさんのブログ → エジプトで環境を守る仕事をするしゅわわです。
しゅわわさんの寄稿第二弾はこちら!