藤掛洋子先生からのアドバイス
先日、フィールド調査団の関係で、中南米地域で活躍する国際協力の大学教授から、活動に関してのアドバイスを受けた。
それは横浜国立大学大学院の藤掛洋子教授で、研究テーマは文化人類学、開発人類学、パラグアイ地域研究、ジェンダーと開発、質的評価、開発実践だそうだ。
パラグアイ、ペルー、ホンジュラスなどラテンアメリカ諸国で、フィールドワークや研究をされている。
藤掛洋子研究室
ぼくはパナマの貧困地域で、「農業・栄養・衛生」という3本柱の改善を行うプロジェクトに参加している。
青年海外協力隊の野菜栽培隊員として派遣され、農牧省で農業技師として働いているので、ぼくは主に農業部門の改善を担当していた。
フィールド調査団でも農業の改善活動を行い、そのデータを藤掛先生に見て頂くと、
「パナマの貧困地域の子供たちは、『疥癬(かいせん)』という人間に寄生するダニの被害を受けている可能性がある」
と教えて頂いた。
疥癬(かいせん) – 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
「本当かなぁ。そんなの見たことないけどなぁ」と思いながらも、さっそく活動している村で調べてみた。
疥癬の被害
すると、本当に疥癬に似た症状で苦しむ子供がいた!
手の指の間に傷があり、そこにヒゼンダニという寄生虫が住んでいる、っぽい。
ヒゼンダニは人間の皮膚を食い破り、中に侵入し、卵を産み付けて繁殖する。
寄生されると痛くて痒いらしい。
中南米の山奥の村など、衛生状態が悪い貧困地域で多く発生しているそうだ。
しかし、ぼくは医者ではないので、病気の診断はできない。
なぜなら資格を持たない者の医療行為は、JICAから禁止されているからだ。
カナダ人寄生虫の専門家との出逢い
すると、奇跡的にカナダの医学系大学院博士課程の女性が、研究発表のためにパナマのぼくが参加しているプロジェクトのオフィスにやって来た。
彼女は以前にぼくが参加しているプロジェクトに協力しており、なんと専門分野は寄生虫!
先輩隊員が気を利かせて連絡先を聞いてくれ、メールで連絡が取れるようになったので、すぐに子供の手の写真を、寄生虫研究をしている大学院生に送った。
すると、「これは疥癬です!」との診断を頂き、子供の問題の原因を確定することができた。
後日、彼女のパナマの寄生虫感染に関するプレゼン発表会に参加し、お礼を伝えることができた。
プロジェクト会議で先生に依頼
ちょうどそのタイミングで、各校の先生が集まるプロジェクトの定例会議が、村の病院で開催されたので、 先生たちと看護師たちに写真を見せながら寄生虫の説明をした。
先生たちと実は看護師たちでさえも、この問題に気づいておらず、驚いていた。
そして、
「子供の手に異常があったら、教えて欲しい!」
と先生たちに協力をお願いした。
しかし、ここはパナマ。
「どうせ、先生たちは何もしてくれないんだろうな…」と半ば諦めていた。
子供の皮膚に問題
しかし、今週の火曜日に学校に行くと、すぐに先生から呼ばれた。
「ダイ!この子供たちの皮膚が変だから、見て頂戴!」
そこにいた5名の子供の手や脚、顔、頭を見ると、明らかに異常が起きていた。
手に水疱瘡のような出来物がある少女の手。
青年も同じような症状。
別の少女の太ももには、痛々しい傷が。
顔に出来物が現れている少年。
頭皮がボロボロの状態の少年も。
先生がちゃんと子供の手を観察してくれて嬉しくなったが、子供たちの症状を見て辛くなった。
そして、その症状は疥癬のモノとは異なるのでぼくには判断できず、同行した看護師も全くわからないとのことだった。
母親に話しを聞くと、「子供たちを病院に連れて行って注射を打ってもらったが、一向に改善されない」と困っていた。
子供たちは病院で医師の診断と治療を受けたが、治らずに困っていた。
パナマの医療事情
パナマの村には国立の病院があるが内科医しかおらず、しかも医療技術のレベルが低い。
同じ村では、高熱で5歳の子供が命を落とした。
町まで行けば医療技術の高い私立病院があるが、私立病院の医療費はとても高く村人には到底支払えない。
なので、母親たちは「自力で」子供の病気を治さないといけない。
熱帯の病気の本とネットで調べた
家に帰ってから、「熱帯における子供のプライマリ・ヘルス・ケア」という熱帯地域の病気の本と、インターネットで村で見た子供の症状を調べてみた。
どうやら、菌による皮膚病っぽい。
もしその類の病気だとすると、薬で完治するものではなく、衛生状態を改善しないと治癒しないらしい。
山奥の村では、子供はこのような環境で生活している。
靴は履かず、放し飼いのイヌ、ニワトリ、ブタ、ウシ、ハト、七面鳥、アヒル、ガチョウなどと一緒に暮らしており、動物と人間の糞尿が家の近くに散在している。
衛生状態が悪いことが、皮膚の異常の原因である可能性は高いし、衛生状態の改善なら医療行為には当たらないだろう。
衛生指導
そこで、昨日同じ村に行き、先生と母親に衛生状態を改善するように以下のアドバイスした。
1.傷口を掻かない
2.爪を短く切る
3.毎日シャワーを浴びる
4.石鹸の泡で優しく洗う
5.タオルを共有しない
6.食事を取る
7.手を洗う
シャワーを浴びるや食事を取るは当たり前のことだが、山奥の村では当たり前ではない。
そして、子供の皮膚に異常を感じたら、まずはすぐに村の病院に連れて行くようにお願いした。
ひとまずはこれで、子供たちの様子を見ることにした。
医療の偉大さ
最近になって、子供の疥癬という寄生するダニの被害と皮膚の異常を発見した。
山奥の村には17回滞在したが、まだまだ村の暮らしを理解しきれていないようだ。
そして、医療の重要性も痛感した。
当たり前のことだが、生きていくためには医療が必要だ。
山奥の村ならばお金を稼がずに生きていけなくもないが、先進医療を受けようとするとどうしてもお金が必要だ。
国立病院のレベルも向上するべきだと思う。
青年海外協力隊から帰国後に突然医者を目指す人
「青年海外協力隊から帰国後に突然、医者を目指す人がいる」という話はよく聞く。
そういう人は、途上国で医療不足で悩む人々を見て、考えが変わったらしい。
以前はその考えが全く理解できなかったが、今は少し理解できる。
子供たちの力になれないことが無念だし、助けてあげたいと感じた。
医者になるとは言わないまでも、今出来る範囲で子供たちの役に立ちたいと思う。
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