コミュニティ宿泊
国際開発や民族学の世界では、住居が複数集まった集落のことを「コミュニティ」と呼んでいる。
ぼくは青年海外協力隊として派遣されてから、これまでにコミュニティに20回宿泊してきた。
そして、10月13日から16日までの3泊4日で21回目のコミュニティ滞在を行った。
この写真の真ん中あたりに、ぼくが泊まっていた学校が写っている。
今回の滞在は、ぼくが一番力を入れている集落で行った。
その集落は、ぼくが住んでいる村の中心地から乗合ジープに一時間乗り、そこからさらに2時間山道を歩いた先にある。
電気も水道もない集落である。
21回目のコミュニティ滞在の目的
今回のコミュニティ滞在の目的は、3つあった。
1.学校菜園の指導
ぼくが参している栄養改善プロジェクトでは、各学校に学校菜園を作り、野菜の育て方を教えている。
これまでは月に一回から三回の頻度で、プロジェクトメンバーと巡回指導を行っていた。
しかし、プロジェクトの車が壊れてしまい、巡回指導が出来なくなってしまった。
そこで、ぼくは乗合ジープと徒歩でコミュニティに行き、学校菜園の栽培指導を行うことにした。
2.家庭菜園の種播き
ぼくは9月から「家庭菜園の講習会」を3つのコミュニティで始めた。
これは今回宿泊したコミュニティで今年の5月から行った、「袋を使った家庭菜園の講習会」が良い結果を出したので、優良事例として他のコミュニティでも実施することにしたのだ。
そのうちの2つのコミュニティが、今回宿泊したコミュニティの近くにあるので、そこまで歩いていき、家庭菜園の野菜の種播きを行うことにした。
3.伝統稲作の調査
先月からぼくは伝統的な焼畑農業の、特に稲作について調査を行っている。
2013年8月の任地に着任した当時も、伝統的な農業の調査を行っていた。
しかし、ある程度焼畑農業のことを学ぶと、教科書に載っていた通りの情報でぼくの興味はなくなり、自分の野菜栽培普及活動が忙しくなったこともあり、伝統的な農業の調査をやめた。
しかし、2014年9月になり、伝統的な農業はぼくが想像していたものよりも、もっと面白い農法であると気が付いた。
そこで、最近は伝統的な農業についての調査を行っている。
宿泊した場所
山奥の集落では、学校か民家に宿泊している。
今回も2泊は学校で寝泊まりし、1泊は民家に泊まった。
初めてこの集落に来た頃は、子供たちはぼくを怖がって一人も近づいて来なかったが、今では学校に着くと子供たちが熱烈に歓迎してくれるようになった。
この写真の右側の校舎は、日本大使館の草の根無償援助で建てた校舎である。
日本の援助により、この子供たちは教育を受けられている。
しかし、水曜日には町から来ている学校の先生たちが、町に帰ってしまった。
そのため実際には、山奥の集落に住む子供たちが教育を受ける機会は週に半分ほどしかない。
発展途上国のいろんな分野で言われていることだが、「ハードは整っていても、ソフトが問題を抱えている」。
木曜日は学校の近くの民家に宿泊した。
この辺りの民家は泥の壁とトタン板の屋根で出来ている。
民家に泊まるのも、もうすっかり慣れた。
学校菜園の指導
この学校菜園を訪問するのは、およそ一ヶ月ぶりだった。
トマトを見てみると、病気ですべての葉が枯れていた。
日本の農家ならぶっ倒れてしまうほど考えられない状態だが、パナマではこれが通常である。
パナマではトマトは一段ほどしか収穫できない。
これを改善するために、最近ではこれまでとは違う複数の品種を試している。
植物体はこんな状態だが、パナマでは果実を緑色のうちに収穫をするいわゆる「早採り」をするので、綺麗な果実を収穫できる。
この集落では、海抜700mという高標高を生かして「レタス栽培」に挑戦している。
今のところ、順調に生育している。
長野県出身、信州大学大学院農学研究科・蔬菜花卉園芸学研究室卒という経験を、パナマの高原野菜の栽培に生かしたい。
また二十日大根も育てている。
ほとんどのコミュニティでは、二十日大根に栽培に失敗している。
しかし、このコミュニティでは大成功した!
おかげで子供たちの学校給食に二十日大根を使うことが出来た。
この学校菜園では、トマト、カボチャ、セロリなどなどたくさんの野菜が収穫出来ている。
これからもたくさん野菜を収穫するために、追肥などの今後の農作業の指示を先生に伝えた。
調理方法の指導
ただし、「二十日大根がたくさん採れたよー!」と学校給食を作る当番に来た母親たちに見せたら、「なんやねんこれ!?食べられるの??」と言われてしまった。
彼らは二十日大根を見るのが初めてだし、そもそも二十日大根という言葉も知らなかった。
そこで、二十日大根の調理方法を教えた。
調理方法と言ってもこの集落にある調味料は、塩だけ。
サラダもピクルスも、スープもなにも作れない。
そこで、この日のメニューである「雑炊」に二十日大根も混ぜてもらった。
雑炊にしてしまうと二十日大根の姿が見えないが、ちゃんと入っている。
家庭菜園の講習会
家庭菜園の講習会を行うために、二つの集落まで歩いた。
往復で5時間。
重いバックパックを背負って、アップダウンが激しい山道を歩くのは、かなりしんどい。
山奥の集落に暮らす農民にも、「マジでそんなに歩くのか。大丈夫か?」と心配されるほど歩いた。
おかげで今は、全身が筋肉痛になっている。
家庭菜園では、まずは種播きを行わなければいけない。
そこで、各家庭向けに「7種の野菜の種セット」を作成した。
左から、ズッキーニ→キュウリ→ツルムラサキ→ピーマン→トマト→タマネギ→セロリの種である。
この7種類の種を、綺麗な折り紙袋の中に入れた。
家庭菜園の講習会の参加者は、2つの集落の合計で32名なので、32セット作成した。
この種を「苗を栽培するための7つのプラコップ」と合わせて配布した。
本当は種まきまで一緒に行いたかったが、一日で二つの学校でこの種の配布を行わないといけなかったので、注意点を口頭で説明して配布した。
あとは母親たちの管理を信じるしかない。
とりあえず、2つの学校で家庭菜園の講習会を始めることができた。
残り1つの学校でもすでに参加者が集まっているので、早く始めたい。
そして、さらに2つの集落でも家庭菜園の講習会を始めたい。
伝統的な稲作の調査
パナマの伝統的な農業とは、焼畑農業である。
傾斜地でイネ、トウモロコシ、キャッサバ、長芋、キマメを混植栽培する。
そして、イネは一品種だけではなく、複数の品種を栽培している。
しかもその品種は、企業や研究所が品種改良したものではなく、在来品種もしくは伝統品種と呼ばれるタイプの品種らしい。
そこで、そのイネの品種についてを中心にして、伝統的な農業について調査を行っている。
これまでにいろんな形や色の稲の籾が見つかった。
今回は、イネの収穫にも同行した。
おじさん二人が、手作業でイネを収穫していた。
おじさんたちが手に持っているのは、稲刈り用の道具。
名前は、アビヨン。
日本語に訳すと、飛行機という意味になる。
これで稲の穂だけを刈り取って収穫する。
そして、穂を縛って保存する。
伝統的なイネの調査をすればするほど、新しい情報が出てくる。
ぼくは大学と大学院で、伝統的な農業を研究していた教授のもとで研究をしていたので、とても面白い。
そして、村人が生き生きと話をしてくれるのが嬉しい。
子供の病気の話や野菜栽培の話では、ぼくが先生役となって村人に指導しないといけないが、伝統的な農業では村人が先生役になり、立場が逆転する。
村人との人間関係の形成やコミュニティのためにも、伝統的な農業の調査は役に立つと思う。
まとめ
21回目のコミュニティ滞在を行った。
学校菜園の指導、家庭菜園の種配り、伝統的な稲作の調査を行った。
とても充実した滞在になったが、山道を何時間も歩き回ったせいで、かなり疲れた。
今後も山奥の集落に滞在しながら活動を展開したい。