一年半ぶりに青年海外協力隊の任地で調査を行い、ぼくが教えた技術がどの程度残っていたのかを記事にしたところいろんな反響があった。
参考:「ダイスケの名前だけが残った」青年海外協力隊の活動が継続したのか疑問だったので一年半後に調べてきた
現役の協力隊ブロガーさんたちにも読んでもらえ記事にまでして頂けたので、ぼくからも現役隊員のみなさんやこれから派遣される方へメッセージを送ろうと思う。
ぼくは二年間の青年海外協力隊を経験し、一年半かけて日本や南米、アフリカで協力隊関係者と話をして、一年半後に活動の結果を調査したことで、青年海外協力隊の支援が継続するたった一つの方法は「イシューからはじめること」だとわかった。
「たった一つの方法だなんて言い切るなよ。配属先とか職種とかいろいろ関係するだろ」と思うかもしれないが、あえて言い切りたい。
一年半ぶりに青年海外協力隊の任地を調査してわかったこと
ぼくは2013年7月から2015年6月まで青年海外協力隊・野菜栽培隊員として、中米パナマ共和国で活動していた。
そして、帰国から一年半後の2016年12月にパナマへ里帰りし、任地の無電化集落でぼくが教えた技術がどれほど残っているのか調査してきた。
1.協力隊時代の目標は、10年後まで続く技術を伝えること
ぼくの青年海外協力隊時代の目標は、10年後まで続く技術を伝えること。
なぜこのような目標を立てたかというと、青年海外協力隊が行った活動のうち99%は隊員の帰国と同時に消滅するから。
協力隊が帰国してからも現地の人だけで継続できる活動をしないと意味がないと考え、現地の人が必要としている技術かつ彼らだけでも継続できることを考えて活動していた。
「お腹が空いている人には魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよう」と例えられている。
当時考えていた想いはこちらを読んで欲しい。
・1つの村に1つの技術を10年後まで !青年海外協力隊の最終目標はたった1つの適正技術を残すこと
・青年海外協力隊の要請プロジェクトが崩壊したおかげで、忘れかけていたボランティア活動のモットーを思い出せた。
2.一年半後に任地を調べたらほとんどの活動は消えていたが、一部の技術は残っていた
パナマを立ち去ってから一年半が経ち、ぼくが教えていた技術はどうなったのか気になったので、再びパナマを訪問し任地を調べることにした。
任地の無電化集落を訪問し調べてみると、指導していた学校菜園とグループ農園は荒れ果てていたが家庭菜園は残っていた。
ビニール袋で育苗する方法や、畝を作って定植する方法、金網で鶏から野菜を守る方法は定着していた。
詳しくはこちらをお読みください。
・「ダイスケの名前だけが残った」青年海外協力隊の活動が継続したのか疑問だったので一年半後に調べてきた
3.青年海外協力隊などいろんな人から反応があった
この結果をブログにまとめてTwitterに投稿すると、いろんな人から反応があったので紹介しよう。
Twitterの反応
これは非常に考えさせられる。
ラーメンの作り方だとか小手先の方法論でなく考え方や人生に対する姿勢をスタッフに残したいといつも思う。
「ダイスケの名前だけが残った」青年海外協力隊の活動が継続したのか疑問だったので一年半後に調べてきた https://t.co/RdtQjVXiDS pic.twitter.com/9r99UWnQBm— でぐ@台湾 (@DEMI1202) 2016年12月23日
とても良い記事。国際開発系のことを学びたい人/学んでいる人は必ず直面する課題だろうな。活動後の理想と現実、そしてその土地に残る物。
「ダイスケの名前だけが残った」青年海外協力隊の活動が継続したのか疑問だったので一年半後に調べてきた https://t.co/0FCLrkb2dz— Doga (@DogadogaTv) 2016年12月22日
この記事めちゃくちゃおもしろい。見事に現地集団へのNeeds assessmentの必要性が浮き彫りになってる。すごい大事な考え方
「ダイスケの名前だけが残った」青年海外協力隊の活動が継続したのか疑問だったので一年半後に調べてきた https://t.co/UYey5XvG0u
— えまのん (@emanon58123) 2016年12月22日
協力隊の人が任期終わって、もう一回現地に行ったときの話集めたら面白そう。僕もザンビア戻ってみたいな。
「ダイスケの名前だけが残った」青年海外協力隊の活動が継続したのか疑問だったので一年半後に調べてきた https://t.co/MaiOYsfqyu
— 田才 諒哉(Ryoya Tasai) (@ryoryoryoooooya) 2016年12月22日
タイトルから悲しい結末を想像したけど、結果的にすごく良かった。お疲れ様でした!>「ダイスケの名前だけが残った」青年海外協力隊の活動が継続したのか疑問だったので一年半後に調べてきた https://t.co/vCxU0QN3Uh
— さがっと(Susumu Harada) (@sagatman) 2016年12月22日
おれの活動で残るものはなんだろう。ひらがなプリント、かるた・・・ やばい。もっと残さないと!!それにしても、素敵な記事だったな。 https://t.co/xcHOqnST76
— 庭山恵太 (@niwayma) 2016年12月22日
そして、現役・青年海外協力隊ブロガーの方々がブログに読んだ感想を書いてくれた。
青年海外協力隊だからこそできる国際協力とは | ルワンダノオト
宮崎さんが普及した農業技術はほとんど維持されていませんでした
ただし、村人たちからは「中国人のダイスケが帰ってきたぞー!!」と数百人からダイスケコールで迎えられたそうですw
日本人というのが伝わらなかったのは残念ですが笑、住民との再会でこんなに喜んでもらえるなんて隊員冥利につきますね
協力隊OBが任地へ帰ったら「名前だけが残った」と知った。僕はもう悩まない – 僕はネパールを変えることができない。
宮崎さんの活動そのものは確かにあまり残らなかったかもしれない。
でも、彼の「名前」は確かに現地に残っていた。
これは本当に素晴らしいことだと思うし、もしかしたら現地を発展させることよりも価値のあることなんじゃないかと思っています。
じゃあなぜ宮崎さんは「名前」を残すことができたのだろう?
それは、宮崎さんの「結果」にこだわる姿勢があったからだと僕は思っている。引用元:協力隊OBが任地へ帰ったら「名前だけが残った」と知った。僕はもう悩まない – 僕はネパールを変えることができない。
4.青年海外協力隊へ「イシューからはじめよ」と伝えたい
いろんな人から感想をもらったので、ぼくからももう少し突っ込んでみようと思う。
ぼくは二年間の青年海外協力隊を経験し、一年半かけて日本や南米、アフリカで協力隊関係者と話をして、一年半後に活動の結果を調査したことで、青年海外協力隊の支援が継続するたった一つの方法は「イシューからはじめること」だとわかった。
現役隊員やこれから協力隊へ派遣されるすべての人に伝えたい、「イシューからはじめよ」と。
青年海外協力隊の意義は「本当の課題」を見つけること
青年海外協力隊の経験、世界中で協力隊関係者と情報交換した経験、任地へ戻って調査した経験から、青年海外協力隊の意義は「任地が抱える本当の課題=イシュー」を見つけることだとわかった。
1.支援団体やプロジェクトの目的は、「本当の課題」とズレている
なぜこのように考えるようになったかというと、中南米やアフリカの国際協力を見てきて支援団体やプロジェクトの目的は「地域が抱える本当の課題」とはズレていると気がついたからだ。
支援団体は支援団体のために活動をしているし、プロジェクトはプロジェクトのために活動を行っている。
グループ農園にプロジェクトが介入して失敗した理由
例えば、ぼくがメインで活動していた集落には順調に活動している少人数の有志によるグループ農園があった。
彼らは野菜を育てる意欲があり自発的に野菜栽培を行っていたので、ぼくが農業技術を指導していた。
しかし、ある日それを知ったプロジェクトのメンバーが「あそこは人数が少なすぎて(プロジェクトの評価基準では)ダメな地域だ! そうだ学校の先生にお願いして強制的にすべての村人を参加させて、新しい学校菜園を開墾させよう!」という指示を出してその通りにさせた。
その結果、やる気がない村人が集められ不平不満を言い共同作業に参加しなかったので、ぼくが居た頃からすでに学校菜園は崩壊していた。
村人にとってみればグループ農園に参加している人数が少ないことはまったく問題ではなかったのに、プロジェクトの評価基準で考えると問題になってしまったのだ。
村人は本当に大人数の学校菜園を必要としていたのか?
鶏ビジネスを全員で始めた村が失敗した理由
もう一つ、ぼくが活動していた集落でNGOが鶏ビジネスを指導したことがあった。
鶏ビジネスとはNGOがヒヨコとエサと飼育セットを無料で配布し、村人はヒヨコを育てて鶏肉を売りその売り上げの一部で新しいヒヨコとエサを買うことで、継続的な現金収入が得られるという夢のような話。
これはどこかで成功事例として取り上げられて、アフリカやアジア、中南米など世界中で大流行した支援プログラム。
ただし、ぼくの任地では大失敗。
なぜかというと数十軒しかない集落のほぼすべての家に、同時にこのビジネスを始めさせたから。
集落中に「鶏肉売ります」の看板が立ち並び、鶏ビジネスを始めた村人が鶏ビジネスを始めた村人に鶏肉を売ろうとしていて酷い光景だった。
そもそも村人に鶏肉を買うお金はないし、鶏肉を食べるのは年に数回のごちそうなので売れるワケがない。
そのため鶏は売るべき時期になってもまったく売れなかったので、病気にかかり死んでいった……
鶏ビジネスを始める需要がない集落で供給者を大量に作り出しても意味はないが、NGOとしては鶏ビジネスを指導したことが実績として評価される。
村人は本当に鶏ビジネスを必要としていたのか?
乾燥地帯で灌漑を使った野菜栽培が失敗した理由
アフリカでも中南米でも乾燥地帯や乾季に灌漑設備を作って野菜栽培を指導するケースが多いが、そのほとんどが失敗している。
なぜかというと、乾燥地帯で野菜を育てることが間違っているからだ。
乾燥地帯なのに無理に野菜を育てようとしている村人がいたら、それは問題だと思う。
しかし、乾燥地帯だから水がたくさん必要な野菜ではなくトウモロコシや豆しか育てていないとしたら、それは問題ではなく逆に素晴らしい対応策として評価すべき。
協力隊でも乾燥地帯や乾季に灌漑を作って野菜を指導している人がいると思うが、「本当に村人は乾季に野菜栽培をする必要があるのか?」と聞きたい。
イシューを間違えていたら、いくら活動に時間を使っても意味がない
ボランティア活動に真面目に取り組んでいる協力隊もいると思うが、いくら活動に取り組んでも「問題=イシュー」を捉え間違えていたらまったく意味がない。
支援組織やプロジェクトの成果にはなるかもしれないが、任地のためにはならない。
2.現場に入り込める協力隊にしか、「本当の課題」は見つけられない
本当の課題を見つけることができるのは、現場に入り込める協力隊だけだと思う。
JICAプロジェクトの専門家や開発コンサルタントには、現場の生きた情報は入ってこないし全然理解していない。
彼らにとって重要なのは現場ではなく「報告書」だから。
要望調査票に書かれた通りに活動すればOK?
「でも、要望調査票(協力隊向けの指示書)には【地域が抱える問題】がすでに書かれているし、そのために【すべき活動】も書かれているよ??」と思う人もいるかもしれない。
たしかに要望調査票にはそれっぽいことが書かれているけど、要望調査票を作ったJICAの調整員は任地のことをどれだけ知っているのだろう?
その地域を訪れたことがあるだろうか、あったとしても何時間、何日間滞在しただろう?
理数科教師として派遣された協力隊が水道管工事をした理由
アフリカで活動していた隊員で理数科教師として派遣されたのに、水道管工事をしていた人がいる。
彼は生徒の学力向上のために学校へ派遣されたが、そもそも生徒が学校へ登校して来なかった。
なぜかというと、遠くの水汲み場まで毎日水を汲みに行くことが子供の仕事だったから、学校へ行く時間がなかったのだ。
そこで、彼は村人を集めて水道管工事を行い水道管を設置して、子供の水汲み問題を解決して学校へ通えるようにした。
学力が低い原因は村に水道がないことだったのだ。
理数科教師として派遣された協力隊がマヨネーズ工場を立ち上げた理由
アフリカに派遣された別の教師隊員でマヨネーズ工場を立ち上げた人がいる。
彼は生徒が学校で勉強ができないのは、親が仕事がなくて学費が払えないからと気がついた。
そこで親の雇用を生み出すためにマヨネーズ工場を立ち上げたそうだ。
大豆の加工工場へ派遣された協力隊が流通企業を立ち上げた理由
ケニアで大豆の流通企業を経営されている薬師川さんは、もともとは大豆の加工食品を作る場所へコミュニティ開発隊員として派遣された。
しかし、彼女は活動していく中で「大豆農家が儲からないのは大豆の加工食品ではなく、大豆の流通に問題がある!」と気がつき、大豆の流通企業を立ち上げた。
そして、任期が終わったあともケニアに戻り、大豆の流通企業を経営されている。
詳しくはこちらを読んでほしい。
・ケニアの大豆農家を支えたい!薬師川智子さんがクラウドファンディングに挑戦[PR]
学校菜園とグループ農園が崩壊して、家庭菜園だけが残った理由
ぼくのケースでいえば、学校菜園とグループ農園は村人たちが抱える本当の課題には合っていなかったのだ。
彼らが必要としていたのは「自分の家族のために家庭菜園をする技術」であり、「仲が悪い村人と一緒に顔を合わせた野菜を育てる場所」ではなかった。
ただし、プロジェクト側の評価基準では学校菜園に何人の父兄が参加したか、何種類の野菜を育てたか、週に何回の共同作業を行ったかが評価されていたので、それらを改善することに力が入れられていた。
このプロジェクトの本来の目的は「家庭菜園のために、学校菜園で野菜の育て方を教える」ことだった。
しかし、国際協力の世界で頻発している「手段の目的化」が起こっていた。
「本当の課題」に気がつけるのは、現地人と一緒に生活し一緒に働く協力隊ならでは
任地が抱える本当の課題に気がつけるのは、現地人と一緒に生活し一緒に働いている協力隊ならでは。
協力隊員はJICA専門家やコンサルタント、駐在員、調整員では絶対に気が付けない情報、知り得ない情報を得ることができるから。
(その代わり協力隊は予算が少ないし、専門知識や経験が少ないし、影響力や発言力も弱いけどね)
だからこそ、協力隊には要望調査票に書かれていることやNGOが作りあげた虚像に惑わされずに、任地が抱える本当の課題を探してほしい。
3.協力隊が帰国してからも任地で継続する支援がしたいならイシューからはじめよ!
青年海外協力隊にとって、本当の課題(=イシュー)を見つけることは重要だ。
イシューを見つけることが青年海外協力隊の支援が継続するたった一つの方法といっていいだろう。
逆にいえば、これまで継続して来なかった国際協力の支援はイシューが間違っていたのだ。
これは「ボタンのかけ間違い」と比喩される。
活動がうまくいった隊員とそうでない隊員の違い
ぼくは日本や中南米、アフリカでいろんな現役の協力隊、協力隊OBOGと会って話を聞いてきた。
そして「活動がうまくいった隊員とそうでない隊員の違いは、イシューを見つけられたかどうかにある」とわかった。
イシューを見つけられなかった隊員は「この活動を行った」とだけ話すが、イシューを見つけられた隊員は「この問題を解決するために、この活動を行った」と話ができる。
このわずかな違いは実はとても大きいので、現役隊員や協力隊OBOGと話をする機会があったら気にしてみてほしい。
青年海外協力隊の支援が継続するたった一つの方法
どれだけ長い時間を費やしても、どれだけ幅広い活動を行っても、地域が抱える本当の問題を解決できれなければ意味がない。
本当の課題から外れた活動をいくら一生懸命行っても、その活動は隊員が帰国すればすぐに消滅する。
青年海外協力隊が帰国してからも任地で継続する支援とは、その地域が抱える本当の課題(=イシュー)を解決する活動だけだ。
「たった一つの方法だなんて言い切るなよ。配属先とか職種とかいろいろ関係するだろ」と思うかもしれないが、あえて言い切りたい。
なぜならば、協力隊の活動の責任は100%隊員自身にあるからだ。
・JICAが悪い?カウンターパートが働かない?否!青年海外協力隊員の活動が上手くいかない原因は、100%ボランティアに責任がある。
なので、現役隊員やこれから協力隊になる人には、まずはイシューを見つけることから始めてほしい!
4.おすすめの参考図書
現役の協力隊、これから協力隊になる人には、以下2冊の本を読んで欲しい。
イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」
「イシューとは何か? どう探すのか? どうアプローチするのか?」については、この本を読んで欲しい。
途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法
援助慣れしているいる途上国の村人相手に「本当の課題」を探す方法は、この本を読んで欲しい。
まとめ
今回は、青年海外協力隊の支援が継続する方法としてイシューの重要性をご紹介した。
協力隊には要望調査票に従って活動を始めるのではなく、まずはイシューを探すことから始めてほしい。
イシューを見つけその問題を解決するために活動することで、その活動は隊員が立ち去ったあとも継続して任地の役に立つだろう。